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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

役員給与(アメリカ法)1-はじめに

役員給与に関する論文は多いですが、アメリカ法に言及する論文はあまり見かけませんので、ここで書いてみることにします。なお、これは私の修士論文のテーマでした。

 

まず初めに、アメリカ法を理解するに当たり,内国歳入法典162条(a)について理解する必要があります。

 

 

日本法の法人税法の役員給与に対し、アメリカ法では「給与又はその他の報酬(salaries or other compensation)」の控除についての条文があります。

 

内国歳入法典162条(a)は「営業や事業を遂行する上で課税年度に生じたすべての通常かつ必要な経費(ordinary and necessary expenses)は控除する」と定め、

これに含まれるものとして,(1)において,「実際に提供された個人の役務に対する給与又はその他の報酬(salaries or other compensation)の合理的支給額(a reasonable allowance)」が挙げられています。

 

この「通常かつ必要」の「通常」は、判例では[1]「普通、一般的、習慣的(normal, usual, customary)」[2]という意味で理解されています。人生に一度あるかないかという程度に起こりうる出来事による支出でも、通常であると認められる場合もあり[3],通常であるには当該支出が反復継続した支出であることは必要ではない[4]とされています。通常性は、時、場所、そして状況により変化するものであり、通常性の判断の際には、事業慣行や社会通念が重要な意義を持つことになります[5]

 

次に「通常かつ必要」の「必要」は,判例では、事業を遂行する上で「適切かつ有益(appropriate and helpful)」[6]という意味で理解されており,事業を遂行する上で「不可避(indispensable)」[7]、「絶対に必要(absolutely necessary)」[8]という意味では理解されてはいません。

 

「通常かつ必要」かは、当該支払が当該納税者から見て通常かつ必要か否かではなく、「抜け目のない企業家(hard headed businessman)」[9]から見て通常かつ必要か否かで判断されています[10]

 

以上のような「通常かつ必要」という文言の理解の下で,一般的には、「給与又はその他の報酬」の支払は「通常かつ必要」な経費であると解されています。

 

[1]文言や立法史からは「通常かつ必要」の意義・内容は明らかにできません。「通常かつ必要」の理解は判例法で発展してきました。See Bernard Wolfman, Professors and the “Ordinary and Necessary” Business Expense, 112 U. Pa. L. Rev. 1089, 1092 n.15 (1964). See also Erwin N. Griswold, An Argument against the Doctrine that Deductions Should Be Narrowly Construed as a Matter of Legislative Grace, 56 Harv. L. Rev. 1142, 1145 (1943). 経費の立法史については、石島弘『課税権と課税物件の研究』(信山社, 2003年)316-319頁を参照してください。

[2] Deputy v. duPont, 308 U.S. 488, 495 (1940).

[3]例えばWelch事件連邦最高裁判所判決(Welch v. Commissioner of Internal Revenue, 290 U.S. 111 (1933))は、「事業の安全に影響する訴訟は一生に一度起こるかもしれないものであり、また弁護士の報酬は非常に高く、反復して支払うということはありえないだろう。それにもかかわらず、その支出は通常かつ必要な支出である。なぜなら、その目的のための支払は、金額の大小に関係なく攻撃に対する防御方法として、共通しておりまた受け入れられている方法であることを、私たちは経験から知っているからである」(Id. at 114.)と述べています。

[4] Robinson Land & Lumber Co. of Alabama v. United States, 112 F. Supp. 33, 34 (D.C. Ala. 1953).

[5] Welch, 290 U.S. at 113-14.

[6] Id. at 113.

[7] Adelson v. United States, 221 F. Supp. 31, 32 (D.C.Cal. 1963).

[8] Warwick v. United States, 236 F. Supp. 761, 767 (D.C.Va. 1964).

[9]判決によっては“average”が付いていますが(See, e.g., Wohl v. United States, 267 F.2d 605 (5th Cir. 1959))、“average”の有無は内容と関係がないようです。

[10] See B. Forman Co., Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 453 F.2d 1144, 1160 (2nd Cir. 1972).