路地裏バーのからくり書庫(税法)

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役員給与(アメリカ法)2-内国歳入法典162条(a)(1)の従来の理解

次に,内国歳入法典162条(a)(1)について,従来どのように理解されてきたのかについて言及します。

 

 内国歳入法典162条(a)(1)は、「給与又はその他の報酬」の支払を「通常かつ必要な」経費に算入することを認められるには、「合理的支給額」であることが要求される旨を定めています。

 

 

この「合理的」の解釈には、金額自体が合理的であること、給与又は報酬に関する取引が合理的であることの両方の解釈がありえます。この点について、判例財務省規則は、「合理的」とは金額が合理的であることだと理解してきました。すなわち、給与又はその他の報酬としての支払いの控除の可否は、判例財務省規則(Treas. Reg. § 1.162-7(a)[1])によると、(1)金額が合理的か否か(whether they are reasonable)、(2)事実として純粋に役務に対する支払か否か(whether [they] are in fact payments purely for service)([]は筆者による補足)、という2つの基準で判断するとしてきました[2]

 

 内国歳入法典162条(a)(1)の趣旨は、当該規定の文言からは明らかにできません。また、当該規定の立法史からも明らかにできません[3]。しかし裁判所や財務省規則は一貫して、当該規定は給与又はその他の報酬としての支払の控除を制限する意図で設けられたものと理解してきています[4]

 

裁判所は、「公正(arm’s length)」な取引の下では、事業者はその被用者の役務の価値以上の金額を支払わないであろうから、公正な取引に基づく支払は「合理的支給額」であると考えてきました[5]。また財務省規則は、「給与又はその他の報酬」の「合理的支給額」とは、一般的には、「被用者の役務の価値に釣り合う金額」であると理解してきました(Treas. Reg. § 1.162-7(b)(2))。

結論として,裁判所や財務省規則は、「給与又はその他の報酬」の「合理的支給額」とは「公正」な取引の下で支払われるであろう「被用者の役務の価値に釣り合う金額」と理解しているのです。

 

また、公開会社においては、事業者とその被用者との取引は「公正」だと考えられており[6]、一方で閉鎖会社では、取引は「不公正」と考えられてきました。そのため、「給与又はその他の報酬」としての支払の控除の可否が争われた事案の過半数は閉鎖会社におけるものとなっています[7]

 

なお、このような理解は、給与又はその他の報酬としての支払の「合理的支給額」を超える部分は、「通常かつ必要」な経費とは言えないという見解に基づくものです[8]

 

[1]これは、「合理的支給額」の文言が内国歳入法典に登場した1918年歳入法下での規則(Treas. Regs.45, art.105 (1918))から変わっていません。 See Anne E. Moran, Reasonable Compensation, 390 BNA Tax Mgmt. Portfolio, at A-3 (4th ed. 2009).

[2] Id. at A-3

[3]この「合理的支給額」の文言が内国歳入法典に登場したのは、現行所得税の直接の起源である1913年の歳入法の制定から5年後の1918年です(The Revenue Act of 1918, ch.18, § 214(a)(1) and 234(a)(1), 40 stat. 1066, 1077 (1918))。改正前の委員会報告や審議の中では、「合理的支給額」の文言の追加について言及はされなかったために、立法趣旨は明らかではありません。H. R. Rep, No.767, 65th Cong., 2nd Sess (1918); S. Rep. No.617, 65th Cong., 3d Sess (1918). See Erwin N. Griswold, The Deduction of “a Reasonable Allowance for Salaries” the Undefined Power of the Commissioner, 56 Harv. L. Rev. 997 (1943). See also J.S. Seidman, Seidman’s Legislative History of Federal Income Tax Laws 909-11 (2003).

[4] See Moran, supra note 1, at A-1-2.

条文の趣旨については議論があります。Griswoldは、「合理的支給額」の文言は、給与又はその他の報酬としての支払の控除を制限する意図で設けられたのではなく、拡張する意図で設けられたものであると主張しています。 See Erwin N. Griswold, New Light on “A Reasonable Allowance for Salaries”, 59 Harv. L. Rev. 286, 286-91 (1945).

また、判決の中には、例えばPatton事件第6巡回区控訴裁判所判決において、Mcallister 判事は反対意見の中で、「政府には、給与の金額が適切か、又は過大か過少かを調査・決定する権限はない。ただ、金額が給与かそれ以外かを調査・決定することができるのみである」と述べています(Patton, 168 F.2d 28, 31-33 (6th Cir. 1948) (Mcallister, J., dissenting))。;See also Harold Club v. Commissioner of Internal Revenue, 340 F.2d 861 (9th Cir. 1965).

さらに、Aaron S. J. Zelinskyは、内国歳入法典162条(a)(1)は過剰な役員報酬の支払という経済的に非効率な行為を抑制することによって課税ベースを保護する規定であると理解すべきと主張していますAaron S. J. Zelinsky, Taxing Unreasonable Compensation: § 162(a)(1) and Managerial Power, 119 Yale L.J. 637, 639-42 (2009).

この議論については、いずれ言及します。

[5] Arthur J. Dixon, Planning Reasonable Compensation, 19th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 181, 182 (1961). See also Herman Stuetzer, Jr., Reasonable Compensation, 25th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 491, 492 (1967).

[6]近年公開会社の役員報酬の金額が業績とは無関係で過剰だと批判されていますSee, e.g., Executive Compensation: Hearing Before the Subcomm. on Taxation of S. Comm. on Finance, 102nd Cong., 1st Sess. (1992) rept. in 92 Tax Notes Today 120-47 (1992), available in LEXIS, Fedtax Library, TNT file (statement of Max Baucus)。その原因は、CEOと取締役会の取引は実は「不公正」なものであるからだと主張されていますLucian Bebchuk & Jesse Fried, Pay without Performance-The Unfulfilled Promise of Executive Compensation 15-22 (2004).

 例えば、取締役に就任すると経済的便宜などを得ることができ、CEOは株主総会に提出される取締役選任議案の作成に重大な影響力を及ぼす。その為、取締役は再選されることを期待してCEOに有利な報酬契約をしようとするだろうと言われていますId. at 25-31。

 また、株主などの外部からの圧力が取締役会をコントロールすると従来は考えられてきましたが、実際上、株主の権限は役員報酬の制約としては不十分であったと言われていますId. at 45-52.。具体的には、例えば、裁判所は、経営判断の原則により取締役の事業上の判断にあまり干渉しないという態度を採っているので、訴訟による取締役の責任追及は役員報酬の制約としては不十分であると言われています。

[7] Dan Bertozzi, Jr., Compensation Policy for the Closelyheld Corporation: The Constraint of Reasonableness, 16 Am. Bus. L. J. 157, 161-162(1978)

[8]「合理性」は「通常かつ必要」に固有の要素であると裁判所はしばしば述べており(See, e.g., Commissioner of Internal Revenue v. Lincoln Elec. Co., 176 F.2d 815, 817-18 (6th Cir. 1949))、給与又はその他の報酬としての支払以外の支払にもしばしば金額の合理性が要求されてきました(See J. Martin Burke & Michael K. Friel, Understanding Federal Income Taxation ¶ 12.01 (3rd ed. 2010). 碓井光明「米国連所得税における必要経費控除の研究(二)―控除可能な経費と控除不能な支出との区別―」法学協会雑誌93巻5号745頁(1976年)も参照してください)。このような裁判所の理解に対して、内国歳入法典162条(a)が要求しているのは「通常かつ必要」だということのみであり「金額の合理性」まで要求していないという批判もあります。 See Wirt Peters, The Lincoln Electric Company CaseA "Reasonable" Tax Deduction May Be a Surreptitious Stride toward Totalitarianism, 4 Miami L. Q. 12, 17-20 (1949).