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役員給与(アメリカ法)4-金額基準1(多要素基準)

金額基準には、多要素基準と呼ばれる基準と独立投資家基準と呼ばれる基準の二つのどちらかが用いられています。

ここでは、まず、判決の大半が用いている多要素基準について見ていきます。

この基準は、日本法で言う「実質基準」です。

 

 

1 各要素の具体的内容

内国歳入法典162条(a)(1)や財務省規則は金額基準を満たすか否かの判断基準を明らかにしていませんが、判例法は徐々に発展してきました。

 

金額基準を満たすか否かの判断は個々の事情に応じて行われるべきであり、この意味において、金額の合理性の問題は事実問題である[1]と言われています。また、判断のため考慮すべき要素の中で決定的な要素というものはなく、すべての事実及び事情を考慮して判断しなければならない[2]と言われてきました。しかし、どのような要素を考慮すべきかについては、見解はある程度一致しているようです(様々な要素を総合考量して支払金額が合理的か否かを判断するこの基準を、以下では「多要素基準(multi-factor test)」といいます)。

 

例えばよく引用されるMayson事件第6巡回区控訴裁判所判決[3]では、被用者の資格、被用者の役務の性質・程度・範囲、事業の規模や複雑さ、総所得及び純所得と当該給与との比較、一般的な経済状況、配当と当該給与との比較、類似企業において類似の立場の者に支払われている報酬金額、全従業員に対する給与支払方針、役員の人数が制限されている小規模な会社の場合は当該被用者に過年度に支払った報酬の金額、の9つの要素が挙げられています。

同じくよく引用されるElliotts事件第9巡回区控訴裁判所判決[4]は、同判決以前の判決内で検討されてきた様々な要素は、会社内での役割、外部比較、会社の特徴及び状態、利益の対立、内部整合性、の5つに分類できると述べています。

多要素基準で検討すべき要素として様々な要素が判決の中で挙げられてきましたが[5]、要素の中には、金額基準ではなく目的基準で考慮すべき要素が含まれています[6]。また、内容が他の要素とほぼ同じものもあります。

 

そこで金額基準で考慮すべき要素だけを抜き出して整理すると、考慮すべき要素は、

(1)被用者の役務

(2)使用者の事業

(3)類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額

(4)一般的な経済状態

の4つに分類できます。

 

他に、直接的に金額を測定する為の要素ではありませんが、(5)利益の対立という要素が前掲Elliotts事件第9巡回区控訴裁判所判決以降しばしば検討されています。

 

裁判所は、判断のため考慮すべき要素の中で決定的な要素というものはなく、すべての事実及び事情を考慮して判断しなければいけないと述べる一方で、上記の要素のうち(3)の要素、すなわち「類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額」という要素を重要視してきています[7]。その意味は、基本的に、多要素基準は、当該支払金額と類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額との比較に加え、当該被用者の役務の価値を高くする又は低くする事実があるかを見て、当該被用者の役務の価値を直接的に測定する基準だということです。

 

以下では、各要素が報酬の合理性の判断に与える影響について、裁判所はどのように考えてきたのかを見ていくことにしましょう。

 

(1) 被用者の役務

 この要素は、さらに細かく、被用者本人の能力等と、被用者が実際に提供した役務、の2つに分類できます。

被用者本人の能力などに関連し、被用者の提供した役務の価値が高いと考えられる事実としては、被用者が特別な資格[8]や訓練[9]、経験[10]などを有しているという事実が挙げられます。

被用者が実際に提供した役務に関連し、被用者の提供した役務の価値が高いと考えられる事実としては、当該被用者がCEOなどの重要な立場にあり特別な義務を果たした又は主要な責任を負っていた[11]という事実や、事業の成功は被用者の役務に帰するものであるという事実[12]、勤務時間が長かったという事実[13]が挙げられています。しかし役員の場合には、役員以外の被用者の場合とは異なり、勤務時間は役務の価値とは関係がないと考えられているようです[14]

 逆に、被用者本人の能力等に関連し、被用者の提供した役務の価値が低いと考えられる事実としては、被用者は特別な資格や訓練、経験などを有していないという事実[15]が挙げられます。

 被用者が実際に提供した役務に関連し、被用者の提供した役務の価値が低いと考えられる事実としては、事業遂行のために特別な義務を果たしているわけではなかった又は主要な責任を負っているわけではなかったという事実[16]や、事業の成功は被用者の役務に帰するものではなかったという事実[17]、勤務時間は短かかったという事実[18]が挙げられます。

 さらに、この要素に関連して、被用者の役務が事業の成功に貢献した程度が高いほど被用者の役務の価値は高くなると考えられています。

 

(2) 使用者の事業

 役員への報酬は、使用者である会社の規模や複雑さとある程度の関係性を有していると言われています。すなわち、規模が大きく経営が複雑な会社の場合、通常、経営のためには役員に高い経営能力が必要となります[19]。高い経営能力を有しているという事実は、当該役員の役務の価値が高いという判断に結びつきます。そのため、規模が大きく経営が複雑な会社の場合には、規模が小さく経営が複雑ではない会社に比べて、役員に対してより多額の報酬の支払をする必要があると考えられています。

 規模の大きさは、売上、純所得、総利益、資本金などで決定されます[20]。経営の複雑さは、事業活動の性質や金額、組織構造などに依拠しています[21]。規模や複雑さの程度の判断には特に決まった方法はないようで、裁判所は、上記のような事柄を総合考量し他社と比較して、規模や複雑さの程度を判断しているようです。

 

(3) 類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額

基本的に、多要素基準は、当該支払金額と類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額との比較に加え、当該被用者の役務の価値を高くする又は低くする事実があるかを見て、当該被用者の役務の価値を直接的に測定する基準です[22]。そのため、この要素はおそらくもっとも重要な要素であると言われています[23]

 方法としては特に決まった方法はないようで、事案により様々な方法がとられていますが、一番基本的な方法は、当該支払金額と「類似の企業」が「類似の立場の者」へ支払った給与などの金額との単純な比較です。「類似の企業」であることを示すには、総売上などを見て、事業の規模や性質が類似していると考えられることを示すことが必要です[24]。「類似の立場の者」であることを示すには、役務が類似していることを示すことが必要です[25]。また、ストックオプションなども含めた報酬の総額で比較すること[26]も必要となります。

閉鎖会社は給与又はその他の報酬に関する情報を証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)に申告することを要求されていない[27]ために、納税者が閉鎖会社である場合、この要素に関する情報[28]を集めることは困難です。そのため、この要素に関する証拠の重要性を認識していても、納税者は説得力のある証拠[29]を提出することができなかったという事例が多いようです。

 

(4) 一般的な経済状況

 この要素の検討は、会社の利益の増加は、被用者の役務によるものなのか、それとも一般的な経済状態によるものなのかを検討するために有益だと言われています。

より具体的に言うと、景気が悪いときに会社の利益が増加している場合には、会社の利益の増加は被用者の役務によるものと考えられ、したがって被用者の役務の価値は高いと考えられています[30]。一方で、景気が良く物価が上昇している場合、会社の利益が増加していてもそれは被用者の役務によるものではないかもしれないと考えられています[31]

 

(5)利益の対立(conflict of interest)

 この要素は、前掲Elliotts事件第9巡回区控訴裁判所判決が初めて検討した要素です。同判決内では、この要素の具体的内容について、具体的な争点は「企業と従業員との間に、会社が配当を内国歳入法典162(a)(1)により控除しうる給与の支払に偽装することを許容する関係」の有無であり,単独株主の場合は「独立投資家の視点(perspective of a hypothetical independent investor)」が役立つ、と述べられており、その後「独立投資家の視点」での検討に終始しています。このことから、「利益の対立」とは「独立投資家の視点」とも呼べるでしょう。

 また、「利益の対立」とは、経営者と従業員株主との利害関係の対立を意味していると考えられます。すなわち、経営者が自己の給与を高く設定すればその分が利益が少なくなるため、株主は反対するであろうが、株主が従業員株主であるならば給与を高く設定した方が全体的な税負担は軽くなる為、偽装を許容するであろうと言われています[32]

 この「利益の対立」は、「取引の公正さ」と同義と考えられます。すなわち、取引の当事者が従業員株主や株主の関係者であるならば、偽装が容易な状態であるから、このような場合には取引は「不公正」であると考えられ、精査が要求されると裁判所はしばしば述べています[33]。特に、取引の当事者が単独株主であった場合には、その単独株主が唯一の配当受領者であるから、精査が要求されると考えられてきました[34]

 「利益の対立」を検討する意味は、「取引の公正さ」は閉鎖会社には認められないため、「取引の公正さ」の検討は、独立投資家がその給与を是認する可能性の検討に置き換えるということでしょう[35]

 

2 多要素基準の有用性と問題点

 多要素基準は、このように、被用者の役務の経済的価値を左右させる要素を検討することによって、被用者の役務の経済的価値を直接的に測定する基準です。この点、多要素基準は、「合理的支給額」とは「被用者の役務の経済的価値に釣り合う金額」であるという財務省規則や判例の理解に沿うものです。

 

多要素基準においては、考慮すべき要素の中で決定的な要素というものはなく全事実や事情を考慮して判断されなければならないということを、裁判所は繰り返し述べてきました。しかし実際上、各要素は等しく扱われておらず、裁判所は事例により重要視する要素を変えています[36]。そのため、裁判所によって判断が異なることもあり、また、判断結果は予測不可能であると批判されています。

 

[1] Mayson Mfg. Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 178 F.2d 115, 119 (6th, Cir. 1949).

[2] Id.

[3] Id.

[4] Elliotts, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 716 F.2d 1241, 1245-48 (9th Cir. 1983). 本判決を紹介しているものとして、渡邊充「アメリカにおける役員報酬の税務評価」総合政策論集1巻2号23-24頁(2002年)があります。

[5] See, e.g., Barto Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 21 B.T.A. 1197, 1199 (1931); Irby Const. Co. v. United States, 290 F.2d 824, 826 (1961); Edwin’s, Inc. v. United States, 501 F.2d 675, 677 (7th Cir. 1974); Foos v. Commissioner of Internal Revenue, 41 T.C.M. 863 (1981). See also Philip H. Lewis, How to Assemble and Evaluate Evidence to Litigate a Reasonable Compensation Case, 16 J. Tax’n 182, 183-87 (1962); Crawford C. Halsey & Maurice E. Peloubet, Federal Taxation and Unreasonable Compensation 2-17 (1964).; Allen Ford & Ed Page, Reasonable Compensation: Continuous Controversy, 5 J. Corp. Tax’n 307, 309-16 (1979); Roy H. Crosley, TaxReasonable Compensation under Section 162(a) of the Internal Revenue Code, Home Interiors & Gifts, Inc., 6 J. Corp. L. 436, 441 and 443-44 (1981); Andrew W. Stumpff, The Reasonable Compensation Rule, 19 Va. Tax Rev. 371, at 392(1999); Anne E. Moran, Reasonable Compensation, 390 BNA Tax Mgmt. Portfolio, at A-5-8 (4th ed. 2009). 内国歳入庁マニュアル(IRS Mannual 4.35.2.5.2.2)もあわせて参照してください。

[6] See Stumpff, id. at 393.

[7] Arthur J. Dixson, Planning Reasonable Compensation, 19th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 181,183(1961).

[8] See, e.g., Capitol Market, Ltd. v. United States, 207 F.Supp. 376, 378 (D.C.Hawaii. 1962).

[9] See, e.g., Herold Marketing Associates, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 77 T.C.M. 1306, 1314 (1999).

[10] See, e.g., Alpha Medical, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 172 F.3d 942, 946-47 (6th Cir. 1999)

[11] See, e.g., Automotive Investment Development Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 66 T.C.M. 57, 67-68 (1993).

[12] See, e.g., Alpha Medical Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 74 T.C.M. 893, 899(1997).

[13] See, e.g., Shaffstall Corp. v. United States, 639 F.Supp. 1041, 1047-48 (S.D.Ind. 1986).

[14] See Patterson v. McWane Cast Iron Pipe Co., 331 F.2d 921, 923 (5th Cir. 1964).

[15] See, e.g., B & D Foundation Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 82 T.C.M. 692, 701 (2001).

[16] See, e.g., Alondra Indus. v. Commissioner of Internal Revenue, 71 T.C.M. 1916, 1930 (1996).

[17] See, e.g., Metro Leasing and Development Corp. v. Commissioner of Internal Revenue, 81 T.C.M. 1644, 1649 (2001).

[18] See, e.g., L. Schepp. Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 25 B.T.A. 419, 428 (1932).

[19] Samuel Brodsky, What Is Reasonable Comepensation?, 15 Tul. Tax Inst. 389, 396-97 (1965).

[20] See, e.g., Haffner’s Service Stations, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 83 T.C.M. 1211, 1225 (2002).

[21] See, e.g., Choate Construction Co., v. Commissioner of Internal Revenue , 74 T.C.M.1092, at 1099(1997).

[22] 他の方法としては、例えば、Choate Construction Co.事件租税裁判所メモランダム判決において、内国歳入庁長官は、当該被用者の給与などが会社の収入に占める割合と、類似する被用者の給与などが類似企業の収入に占める割合を比較するという方法を用いていました(Choate Construction Co., id. at 1101.)。また、Owensby & Kritikos, Inc.事件第5巡回区控訴裁判所判決において、納税者は、比較する同業種の公開会社を収入などにより3つに分類し、さらに各分類の上位3名の役員が受けるであろう報酬額を決定し、納税者と当該役員はどの分類に当てはまるかを検討するという方法を用いていました(Owensby & Kritikos, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 819 F.2d 1315, 1330-31 (5th Cir. 1987).)。

[23] Arthur J. Dixon, Planning Reasonable Compensation, 19th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 181, 183 (1961).

[24] See, e.g., B & D Foundation Inc., v. Commissioner of Internal Revenue, 82 T.C.M. 692 at 708(2001).

[25] See, e.g., id. at 706.

[26] See Labelgraphics, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 76 T.C.M. 518, 529 (1998).

[27] Sec. Reg. § 229.402.

[28]説得力があると考えられており、「類似の企業」と「類似の立場の者」を探し出す際によく用いられる情報源としては、例えば米国経営管理学会(American Management Association)や全米産業審議会(National Industrial Conference Board)、財務担当経営者協会(Financial Executive Institute)の調査が挙げられます。See Ford & Page, supra note 5, at 310. See also Miriam I. R. Eolis, Problems in Evaluating the Adequacy of Officers’ Salaries, 7th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 39, 43 (1949); Dixon, supra note 23, at 184; Elliott P. Footer & John A. Sczepanski, Current Factors Being Used to Determine When Compensation Is Deductible as Reasonable, 32 Tax’n Acct. 226, 227 (1984).

 情報源の説得力も必要ですが、立証のために適切な情報源を用いているかということも立証の成功を左右します。例えば、B & D Foundation Inc.事件租税裁判所メモランダム判決(B & D Foundation Inc., 82 T.C.M. at 708)は、内国歳入庁長官の立証を採用しない理由として、「Watson Wyatt Surveyは、通常は1億ドル以上の売上のある会社にとってより適切である」ことを挙げています。

[29]この要素に関する証拠の提出には、説得力を持たせるために、しばしば専門家の意見が用いられています。裁判所は当事者の提出した専門家の意見には縛られず、独自の判断をおこなうことができます。See Eolis, id.

[30] See, e.g., Owensby & Kritikos, Inc., 819 F.2d at 1325.

[31] See, e.g., Petro-Chem Marketing Co., Inc. v. United States, 602 Ct. Cl. 959, 967 (1979).

[32]いわゆる、プリンシパル・エージェント理論です。

[33] See, e.g., B & D Foundation Inc., 82 T.C.M. at 699.

[34] See, e.g., Universal Marketing, Inc., v. Commissioner of Internal Revenue, 94 T.C.M.374, at 377(2007).

[35] See, e.g., Elliotts,716 F.2d at 529.

[36]例えば、Denison Doutly & Egg Co.事件合衆国連地方裁判所判決(Denison Doutly & Egg Co. v. United States, 83-1 U.S. Tax Cas. (CCH) P9360 (1982))とClymer事件租税裁判所メモランダム判決(Clymer v. Commissioner of Internal Revenue, 47 T.C.M. 1576 (1984))では、納税者は同じであり、争いとなっているのはいずれも同じ報酬支払基準によって支払われた報酬であり、報酬を受けた被用者も同じでした。被用者の役務に関する両判決の検討結果は同じでした。さらに両判決とも当該被用者が単独株主であると認めています。両判決の事実や評価に差異があるのは、類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額という要素に関する証拠の内容やそれに対する裁判所の評価や、配当の有無でした。結論としては、後者の判決は配当がなかったことを金額の合理性の判断のために重要視しています。一方で前者の判決は、通常支払われる金額よりも多いが、当該被用者の仕事の内容や貢献度を根拠に当該支払金額は合理的だと判断しています。 See Moran, supra note 5atA-9. See also Eolis, supra note 28, at 40.