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役員給与(アメリカ法)6-目的基準1(目的基準の内容)

ここでは、「目的基準」の内容について見ていきます。

 

 

 目的基準の検討は、すべての事実や状況から、支払い時に給与等の支払の意図が認められるか否かで判断されてきました。すべての事実や状況からと言っても、判決で検討されてきた事柄はおおむね重複しています。また、金額基準で検討すべき要素として挙げられている要素の中には、金額基準ではなく目的基準において検討すべき要素も含まれています。

そこで、判決[1]で挙げられてきた要素のうち、目的基準で考慮されるべき事柄を抜き出して整理すると、

 

(1)総所得及び純所得に対する給与の比率

(2)配当政策

(3)給与の支払方針

(4)過年度に当該被用者に対して支払った給与又はその他の報酬の金額

 

の4つに分類することができます。

これらの要素に共通することは、支払の一部又は全部が偽装された配当などかもしれないので検討すべきと考えられているものだということです。

 

以下では、各要素が目的基準の検討に与える影響について裁判所はどのように考えてきたのかを見ていくこととしましょう。

 

(1)総所得及び純所得に対する給与の比率

 会社のすべての利益を会社から奪うように給与が設定されている場合には、裁判所は、金額基準だけでなく目的基準も重要視し、当該被用者全員の給与の総額が総所得及び純所得の何%を占めているかをしばしば検討してきました。

より具体的に言うと、当該被用者全員の給与の総額が占める総所得及び純所得の割合が高いならば、会社のすべての利益を会社から奪うように給与が設定されていると考えられるので、支払金額の一部は実は配当などではないかという疑いが強くなると考えられてきました[2]

この要素を検討すべきという考えには、一般的には、会社は、たとえ会社の中で最も価値の高い役務を提供している者に対してであっても、会社の利益のすべて又はほとんどすべての利益を支払わないという前提があります[3]

 

(2)配当政策

 「給与又はその他の報酬」の「合理的支給額」の文言の起源とされる[4]1914年歳入法下の財務省規則[5]は、本質的に配当の支払である支出が給与又はその他の報酬の支払に偽装されることを懸念して設けられたものです。また「合理的支給額」の文言が内国歳入法典に登場した1918年歳入法の下での財務省規則は、名目上の給与は会社の資産の浪費又は横領かもしれないと述べています[6]。本来は配当政策と給与などの支払金額は別の問題である[7]という考え方もありますが、以上の2点から、裁判所は配当政策も目的基準の判断において考慮してきたと考えられます。

 当該被用者が株主でもある場合、配当の支払がなかった又は支払が少ないという事実は、当該支払の一部は実は配当だということを示しているかもしれないので、「精査」が要求されると裁判所はしばしば述べてきました[8]。また、当該被用者が単独株主である場合には、更なる「精査」が要求されます[9]

 この要素の検討に関連して、金額基準の多要素基準で検討されている利益の対立及び独立投資家の視点がしばしば用いられています[10]。すなわち、配当が支払われていない場合や配当金額が少ない場合であっても、自己資本利益率が独立投資家を満足させる程度に維持されているならば、給与などの支払を通して会社の利益が吸い取られてはいないと考えられているのです。

 

(3) 給与の支払方針

 財務省規則や判例では、「合理的支給額」とは「被用者の役務の経済的価値に釣り合う金額」と理解されてきました。そうであるとすれば、提供した役務の経済的価値が同程度であれば支払金額も同程度になるはずであり、また役務の経済的価値に差があれば支払金額も異なってくるはずです。このことを念頭に、裁判所は、従業員株主の給与と株主ではない被用者の給与との比較や給与の支払方針が従業員株主と株主ではない被用者とで異なるかを検討してきています[11]

 

(4) 過年度に当該被用者に対して支払った給与又はその他の報酬の金額

 内国歳入法典162条(a)(1)は、役務は課税年度に提供していることや、給与又はその他の報酬は役務が提供された年度に支払われていることは要求していません。また、財政状況が良くない場合には、給与又はその他の報酬の支払を控えることもあるでしょう[12]。そのため、過年度に提供された役務に対し不適切に低い報酬が支払われており、課税年度の支払金額が被用者の役務の経済的価値に釣り合う金額を超えていた場合には、課税年度の支払金額には過年度の役務の対価の一部が含まれていると判断される場合があります[13]

 課税年度の支払金額には過年度の役務の対価の一部が含まれている旨を主張するには、納税者は、(1) 過去の役務に対する報酬を意図していること、(2) 過去の不適切な報酬の金額の2点を示す必要があります[14]

 また、過年度に比べて当該被用者の仕事量や責任は増えていないにもかかわらず当該課税年度において支払金額が急激に増加している場合、支払の一部は実は偽装された配当などではないかという疑いが強くなると考えられています[15]

 

 

[1]「給与又はその他の報酬」としての支払の控除が争われた事例の多くは金額基準を重要視しているため、目的基準で考慮すべき要素を挙げている判決は少ないです。例えば、R.J.Kremer Co., Inc.事件租税裁判所メモランダム判決(R.J.Kremer Co., Inc. v. Commissioner, 39 T.C.M. 1212 (1980))では、配当政策、配当支払の見込み、総所得及び純所得と報酬金額の比較、報酬金額算定方法、が挙げられています。See also Roy H. Crosley, TaxReasonable Compensation under Section 162(a) of the Internal Revenue Code, Home Interiors & Gifts, Inc., 6 J. Corp. L. 436, 441 (1981); Allen Ford & Ed Page, Reasonable Compensation: Continuous Controversy, 5 J. Corp. Tax’n 307, 316-23 (1979); Lucinda L. Van Alst & Patricia Isaacs, Compensation Expense: Intent Is Critical, 78 Taxes 29, 34 (2000); Anne E. Moran, Reasonable Compensation, 390 BNA Tax Mgmt. Portfolio, at A-10-14 (4th ed. 2009).

[2] See, e.g., Haffner’s Service Stations, Inc., 83 T.C.M. at 1225-26.

[3] Comment, Unreasonable Compensation in the Professional Corporation, 13 Akron L.Rev.540, 548 (1980).

[4] See Erwin N. Griswold, The Deduction of “a Reasonable Allowance for Salaries” the Undefined Power of the Commissioner, 56 Harv. L. Rev. 997,998 (1943).

[5] Treas. Reg. 33, art.119 (1914). See Griswold, id.; Moran, supra note 1, at A-1.

[6] Treas. Reg. 45, art.105 (1918). ただしこの節は今は削除されています。See Moran, id. at A-12-13.

[7] Arthur J. Dixon, Planning Reasonable Compensation, 19th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 181, 187 (1961).

[8] See, e.g., Choate Construction Co., v. Commissioner of Internal Revenue , 74 T.C.M.1092, 1092-93. (1997).

[9] See, e.g., Universal Marketing, Inc., v. Commissioner of Internal Revenue, 94 T.C.M.374, 377-78(2007).

[10] See e.g., Elliotts, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 716 F.2d 1241, 1247 (9th Cir. 1983).

[11] See, e.g., Home Interiors & Gifts, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 73 T.C. 1142, 1159 (1980).

[12] See, e.g., Grogan Mfg. Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 7 T.C.M. 951, 952 (1948).

[13] See, e.g., Leonard Pipeline Constructions. v. Commissioner of Internal Revenue, 210 F.3d 384, 386 (9th Cir. 2000).

[14] See, e.g., Haffner`s Service Stations Inc., v. C.I.R., T.C.Memo2002-38, 54 (2002)

[15] See, e.g., Pacific Grains, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 399 F.2d 603, 607 (9th Cir. 1968).