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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

役員給与(アメリカ法)7-目的基準2(自動的配当ルール)

「目的基準」に関連して,非常に興味深い判決があります。McCandless事件請求裁判所判決は「自動的配当ルール(automatic dividend rule)」を用いたと言われており、自動的配当ルールの定義は、同判決は述べていませんが、もし事業が成功している閉鎖会社が、配当を支払っていない場合には、従業員株主への給与又はその他の報酬の支払には、必然的に配当の要素が含まれているという考え方だと、一般的には説明されています。

 

 

1 自動的配当ルールの具体的内容―McCandless事件請求裁判所判決

従来、裁判所は、当該被用者がある程度の役務を提供している場合には、目的基準は満たすものと考えて金額基準の検討に重点を置いてきました。しかし、McCandless事件請求裁判所判決[1]は、当該被用者が役務を提供している事実を認めた上で支払金額は合理的と判断しましたが、支払の一部は控除できないと判断しています。

 事案の概要ですが、この事例は給与又はその他の報酬としての支払の控除の可否の問題領域における典型的事例です。すなわち、閉鎖会社が、会社の株式を半分ずつ保有しており、親子であり、取締役でもあった2人に対して支払った報酬は控除できるかが争われています。この事例では配当は支払われていませんでしが、この事実も特に珍しい事実ではありません。

同判決は、まず、支払金額は合理的と判断しています[2]。従来の考え方では、この時点で、当該支払は控除できるという結論に至ります。

しかし同判決は、配当が支払われていないという事実と純利益の約50%が役員兼株主らに給与として支払われていたという事実から、支払金額には必然的に会社の利益分配が含まれていると考えています[3]


同判決は「自動的配当ルール(automatic dividend rule)」を採用したものと考えられており[4]、多くの納税者やその弁護士を混乱させました。自動的配当ルールの定義は、同判決は述べていませんが、もし事業が成功している閉鎖会社が、配当を支払っていない場合には、従業員株主への給与又はその他の報酬の支払には、必然的に配当の要素が含まれているという考え方だと、一般的には説明されています[5]


目的基準の検討に関して、従来は、役務の提供があれば目的基準を満たすと考え、また目的基準の検討はすべての事実及び事情を総合考量すると言われてきました。しかし自動的配当ルールはこれらとは相反するものです。

 

2 自動的配当ルールをめぐる議論

 自動的配当ルールには様々な批判がありますが[6]、その中でも、目的基準との関連で重要と考えられるのは、場合によっては、配当を支払わない正当な理由がありうるということです[7]。これは同判決を出した裁判官らが過去に出した判決であるBrigwald事件請求裁判所判決[8]でも言及されていました。配当を支払わない正当な理由とは、例えば、状況によっては、配当を支払うよりも再投資のために利益を留保するほうが好ましいことがあるということが挙げられます。

 

 配当を支払っていない閉鎖会社には自動的配当ルールが適用されるかもしれないと多くの納税者やその弁護士が悩む一方で、前掲McCandless事件請求裁判所判決以降は、自動的配当ルールを採用する判決は一件も登場しませんでした[9]。従来通りに、すなわち一つの要素のみ偏重せず、すべての事実及び事情を総合考量しています。自動的配当ルールは適用しないと明言する判決もあります[10]

 また、内国歳入庁は、この判決の流れを受けて、1979年に、配当が支払われていないという事実のみで閉鎖会社の従業員株主に支払われた合理的報酬の控除は否認されない旨を法令解釈通達(Revenue Ruling 79-8[11])で明らかにしました。

 さらに、この法令解釈通達が出された後から今まで、裁判所の態度は変わっていません。

 

3 McCandless事件請求裁判所判決が与えた影響

 前掲McCandless事件請求裁判所判決は、その後の判決にまったく影響を与えなかったわけではありませんでした。同判決が与えた影響として、2つの事柄が指摘されています[12]

1つは、同判決以降は、裁判所は目的基準を従来よりも重要視するようになり、金額基準と目的基準の二重の基準を用いて判断する[13]という傾向が出てきたことです。

2つは、裁判所は資本収益(return on capital)の数値を従来よりも重要視するようになったということです。例えばNorCal Adjusters事件租税裁判所メモランダム判決[14]は、「賢明な企業家は、資本収益を生まない努力の追求を望まないだろう(McCandless事件請求裁判所判決)」と述べています。

 さらに、前掲McCandless事件請求裁判所判決以降は、配当の支払がないことは控除の可否の判断における決定的な事実とはならないが精査を要求する「警戒信号(red flag)」であると、しばしば判決内で言われるようになりました[15]

 

 

[1] Charles McCandless Tile Service v. United States, 422 Ct.Cl. 1336 (1970). 同判決を紹介しているものとして、水野忠恒『アメリカ法人税の法的構造―法人取引の課税理論―』(有斐閣, 1988年)145-146頁があります。

[2] Charles McCandless Tile Service, id. at 1337-39.

[3] Id. at 1339-40.

[4] See James P. Holden, Has Court of Claims Adopted an “Automatic Dividend“ Rule in Compensation Cases?, 32 J. Tax’n 331 (1970); Howard P. Walthall, McCandless-Implications for Compensation Planning and Dividend Policy, 6 Cum. L. Rev. 1, 2 (1975); Alvin D. Lurie, Did Lawyer Ashare Win More Than His Share?, 85 Tax Notes 253, 254 (1999); Burgess J. W. Raby & William L. Raby, Accountant's Advice and ‘Reasonable Compensation’, 84 Tax Notes 1519, 1520 (1999).

 McCandless事件請求裁判所判決は、いわゆる自動的配当ルールを採用したものと考えられている一方で、同判決は、自動的配当ルールを採用するものではなく、また事業が成功しているが配当は支払っていない閉鎖会社に自動的配当ルールは統一的に適用されない、という主張もあります。この主張の根拠は2つあります。1つは、同判決には支払の精査(close scrutiny of payment)やすべての事実(all the fact)という言葉が含まれていることです。 Michael Q. Eagan, Reasonable Compensation and the Close Corporation: McCandless, the Automatic Dividend Rule, and the Dual Level Test, 26 Stan. L. Rev. 441, at 445 n.27 (1974); James H. Mclean & Steve Martin, Is "Reasonable" Enough? the McCandless Doctrine, 54 Taxes 642, 643 (1976). もう1つの根拠は、同判決を出した裁判官らが過去に出した判決です。 Eagan, id.; John C. Coggin Ⅲ, The Status of the McCandless Doctrine, 55 Taxes 720, 724-25 (1977). すなわち、Brigwald, Inc.事件請求裁判所判決(Brigwald, Inc. v. United States, 167 Ct.Cl. 341, 346 (1964))は、配当の支払がなかったという事実は、報酬には偽装された配当が含まれているという推測を支えるものであるという、政府側の主張を排除しています。さらに、配当が支払われていなかったという事実のみで報酬には偽装された配当が含まれているという結論は導かれないということ、配当を支払わないことを正当化する多くの事業上の理由がありうることも指摘しています。

[5] See Walthall, id, at 12-13; Doglas A. Kahn & Jeffrey S. Lehman, Corporate Income Taxation 83 (5th ed. 2001). See also Richard K. Grigsby & David A. Reed, How to Establish that Full Compensation Paid to a ShareholderEmployee Is Deductible, 24 Tax’n Acct. 210, 212 (1980).

[6]本稿で挙げる批判以外には、以下のような批判があります。

第1に、配当の支払を強制する法律は存在しないことが指摘されています。 Eagan, supra note4 , at 449-50; Walthall, id. at 13-14 .

第2に、自動的配当ルールは、配当の支払よりもあらゆる経費の支払が優先されるという、一般的に受け入れられてきた立場と相反すると批判されています。 Walthall, id. at 13. すなわち、例えば、特別な事情がある場合を除いて、給与の支払よりも配当の支払が優先されるかもしれないと知りながら雇用契約を締結する労働者はいないでしょう。また、給与の支払よりも配当の支払を優先させる財務責任者はいないでしょう。

第3に、自動的配当ルールは内国歳入法531条の留保金課税(accumulated earnings tax)との整合性が取れないと指摘されています。 Walthall, id. at 16-19; Coggin Ⅲ, supra note 4, at 732-33; John J. Vondran, Updating the McCandless Doctrine: Taxing of Reasonable Compensation Paid by CloselyHeld Corporation, 12 John Marshall J. of Prac. & Proc. 113, 125-27 (1978). 留保金課税の目的は、過大な利益の保持を防ぐことです。しかし、議会は、税法上の観点から例外を設けることに加えて、留保金課税の対象外となる最小限の金額を確立することを適切と見ていました。しかし自動的配当ルールは、これらの立法上の安全な領域を認識していません。

[7] See Eagan, id. at 450-54; Walthall, id. at 14-16; Coggin Ⅲ, id. at732.

[8] Brigwald, Inc., 167 Ct.Cl at 346

[9] See Mclean & Martin, supra note 4, at 643-45; Coggin Ⅲ, supra note 6, at725-32.

[10] See, e.g., Paramount Clothing Co., Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 38 T.C.M. 261 (1979).

[11] Rev. Rul. 79-8, 1979-1 C.B. 92 (1979).

[12] Eagan, supra note 4, at 446-47. See also Allen Ford & Ed Page, Reasonable Compensation: Continuous Controversy, 5 J. Corp. Tax’n 307, 318 (1979).

[13] See, e.g., International Capital Holding Corp. v. Commissioner of Internal Revenue, 83 T.C.M. 1586 (2002).

[14] Nor-Cal Adjusters v. Commissioner of Internal Revenue, 30 T.C.M. 837, 843 (1971).

[15] See, e.g., Edwin’s, Inc. v. United States, 501 F.2d 675, 677 n.5 (7th Cir. 1974).