路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

役員給与(アメリカ法)8-賞与及び不確定報酬(contingent compensation)

次に,以下では賞与及び不確定報酬(contingent compensation)としての支払の控除の可否を見ていきましょう。

賞与及び不確定報酬については,財務省規則で別個に定めがあり(Treas. Reg. § 1.162-9、Treas. Reg. § 1.162-7(b)(2))更にこれらの性質上,偽装配当の支払に利用されやすいと考えられてきました。

 

 

1 賞与及び不確定報酬の定義

 財務省規則は、賞与や不確定報酬の定義を明確にしていません[1]

 しかし、賞与や不確定報酬としての支払の控除の可否に関する判決を見ると、賞与と扱われてきたものは、米国企業の賃金体系の項目のうち経営職賞与と一般社員賞与であり、不確定報酬と扱われてきたものは、米国企業の賃金体系の項目のうち歩合給や報奨金であるとわかります。なお、給与に加えて不確定報酬を支払う旨の契約を、以下では「不確定報酬の合意(contingent compensation arrangement)」[2]ということにします。

 

2 賞与が支払われている場合

 賞与としての支払の控除の可否について、財務省規則は、「被用者への賞与は、そのような支払が誠実に行われており、かつその支払が被用者が実際に提供した役務に対する追加的報酬である場合には、総所得から控除できる。給与に賞与が追加された時に、合計金額は提供された役務に対する合理的報酬を超えることはできない」と定めています(Treas. Reg. § 1.162-9)。

 

 一見して、賞与としての支払の控除の可否の判断は、賞与は支払われていない事案と比べて「支払が誠実に行われた(made in good faith)」ということを要求する点で異なっているように見えます。しかし、裁判所は、賞与が支払われている事案と支払われていない事案とで取扱は異にしてはいません。また、「支払が誠実に行われた」か否かは、常に検討されているわけではありません[3]

 

 賞与は、配当等の偽装に用いられやすいという懸念が強いため、賞与としての支払の控除の可否の判断においては、目的基準に分類できる要素が重要視される傾向にあります。例えば、賞与が支払われている場合には、支払の決定時期がしばしば重要視されています。すなわち、当該賞与の支払がその一年の利益が明らかとなった年末に決定されたという事実は、偽装された配当かもしれないという疑いを強くすると考えられています[4]

 また、賞与の金額が保有株に比例しているという事実が認められるなら、その賞与は実質的には配当であるかもしれないという疑いが強くなると考えられています。

 さらに、係争年度以前から一貫して適用されている賞与規程に基づく賞与は、合理的と判断される傾向にあります。

 このように、賞与も支払われている場合には、目的基準に分類できる要素が重要視される傾向にありますが、これらの要素のうち決定的な要素というものはないと考えられているようです。

 

3 不確定報酬が支払われている場合

 不確定報酬としての支払の控除の可否について、財務省規則は、「不確定報酬の形は、事業の利益分配である可能性があるとして精査を誘引する一方で、不確定な基準による支払は、均一金額の報酬の支払に適用する場合とは異なるものとして基本的に取り扱わなければならない。一般的に、使用者と個人との自由契約に基づいて支払われており、契約が役務提供前に締結されており、公正で有利な条項で個人の役務を獲得するという考慮以外の使用者の意見の影響を契約は受けていないという場合には、たとえ契約に従って算定した支払金額が通常支払われるであろう金額よりも多額であることが明らかかもしれないとしても、控除を認めるべきである」と定めています(Treas. Reg. § 1.162-7(b)(2))。

 

 この規定は、営利原則に基づいた奨励給制度(incentive compensation plans)に従って報酬を支払うことを税法上も許容する趣旨であると言われています[5]。つまり、不確定報酬の合意に基づき報酬が支払われる場合には、当該被用者の役務の経済的価値に釣り合う額以上の額が支払われることもありますが、仮に被用者の役務の経済的価値に釣り合う金額以上の金額が支払われたとしても、それは真に報酬の支払であるから控除を認めるべきであるという考えが表れた規定です[6]。 

「『自由契約(free bargain)』に基づいていると認められること」の具体的内容について明らかにした判決は見当たりませんが、判決を見ると、「取引の公正さ」が認められる場合とほぼ同じ内容と考えられます。契約締結時において当該被用者が株主でもある場合や、当該被用者が株主の関係者である場合には、自由契約に基づいているとは認められにくいです[7]。しかし、契約締結時は株主ではなかった当該被用者が、契約締結後に株主となった場合は、自由契約に基づくものであると認められる傾向にあります[8]。また、当該従業員株主の株の保有割合が低い場合には、自由契約に基づくと認められやすいようです[9]

財務省規則を見ると、一見して不確定報酬の合意に基づく支払の控除が認められるには、自由契約に基づいていることが要件の一つとされているように見えます。しかし、裁判所は、自由契約に基づかないと認められたら、即時に、当該支払は控除できないと考えてきたわけではなく、自由契約に基づかないと認められる場合には、金額基準と目的基準の検討に移っています。当該財務省規則は、控除の可否の判断基準の一種と考えられます。

 不確定報酬が支払われている事案においては、自由契約に基づくか否かに主な焦点が当てられており、財務省規則が要求する「他の考慮の影響を受けていない」ことの意味については、判決内で特に言及されてはきませんでした。株主ではない被用者に対しより多くの役務を期待して不確定報酬の合意を形成する場合とは異なり、従業員株主にはそのような期待をする必要はないということがしばしば言及されています[10]。このことから、役務の動機は不要であるのに不確定報酬を支払っている場合には、他の考慮の影響を受けていないとは考えることは難しいと、裁判所は考えてきたと思われます。

 ほとんどの事例では、「契約が役務提供前に締結されて」いることという、財務省規則の要求を満たしているためか、契約が役務提供前に締結されていることが何故要求されるのかについては、判決内で特に言及されてきませんでした。係争年度から数年前に契約が締結されている場合には、裁判所は納税者に有利に判断する傾向にあることから[11]、契約が役務提供前に締結されていることが要求されているのは、配当などの偽装に利用されないようにするためであると考えられます。

このように、不確定報酬も支払われている場合にも、目的基準に分類できる要素が重要視される傾向にあるが、これらの要素のうち決定的な要素というものはないと考えられているようです。

 

 

 

[1]まず賞与の定義ですが、財務省規則内にも、経済学などの他の領域においても、統一的な定義はないようです(笹島芳雄『最新 アメリカの賃金・評価制度 日米比較から学ぶもの』(日本経団連出版, 2008年)19頁参照)。しかし賞与の支払に関する判決を見ると、賞与は、一般的な給与(salary)とは異なり、臨時的なものであり、会社の財政状況により支払の有無や金額が左右される、という特徴を持っている給与又はその他の報酬の一種と考えられている、ということがわかります。

 賞与のこのような特徴は、不確定報酬も持っていると思われますが、財務省規則や裁判所は両者を明確に区別しています。不確定報酬という用語は経済学等の領域において一般的に用いられている用語ではなく、税法の領域独自の概念です。しかし財務省規則内に不確定報酬の定義はありません。そこで不確定報酬の支払に関する判決を見てみると、不確定報酬と扱われているのは、純利益の一定割合(固定又はスライド制)、一定額を超えた利益の一定割合、総売上の一定割合、販売手数料、被用者の売上にかかる利益の一定割合、純利益の一定割合の一部分(役員が決める)などでした。See Samuel Brodsky, What Constitutes Reasonable Compensation: Contingent Compensation Plans; Factors in Proving Reasonableness of Compensation, 19th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n 169, 170 (1961). これらは米国企業の賃金制度を構成する項目のうち、歩合給や報奨金に該当するものです(笹島・前掲16-19頁参照)。米国企業の賃金制度を構成する賃金項目のうち、これらと基本給(手当としての技能給、知識給はここに含まれるものとします)、さらにストックオプションを除いたものとしては、経営職賞与と一般社員賞与があります。これらは、上記の賞与の特徴を満たすものであり、裁判所は不確定報酬として扱っていないものです。したがって、賞与とは、米国企業の賃金制度を構成する項目のうち、経営職賞与と一般社員賞与であると裁判所は理解していると考えられます。

[2] Anne E. Moran, Reasonable Compensation, 390 BNA Tax Mgmt. Portfolio, at A-5 (4th ed. 2009).

[3] See, e.g., Vogue Silk Hosiery Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 27 B. T. A. 131 (1932).

[4] See, e.g., Universal Marketing, Inc., v. Commissioner of Internal Revenue, 94 T.C.M.374, at 378(2007).

[5] Myron G. Sugarman, Contingent Compensation Agreement Leads to Disallowance of Corporate Deduction for Salary to Nonshareholder Because of Lack of Free Bargain, 53 Calif. L. Rev. 1544, at 1547-48(1965). See also Brodsky, supra note 1, at 169; James A. Fellow & Michael A. Yuhas, Reasonable Compensation: The Search for a Defining Concept, 75 Taxes 114, 120 (1997).

[6] See Barbara F. Sikon, The Recharacterization of Unreasonable Compensation: An Equitable Mandate, 51 Clev. St. L. Rev. 301, 306-07 (2004).

[7] See, e.g., Clymer v. Commissioner of Internal Revenue, 47 T.C.M. 1576,1580 (1984).

[8] See, e.g., California Vegetable Concentrates, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 10 T.C. 1158, 1166(1948). 反対の見解を示す判決 (University Chevrolet Co., Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 16 T. C. 1452, 1454-55 (1951))もありますが、それは「考慮に入れられる状況は、役務に対する契約が締結されたときに存在する状況であり、その契約が争いとなった時に存在する状況ではない」と定める財務省規則(Treas. Reg. § 1.162-7(b)(3))に反します。 Brodsky, supra note 1, at 173.

[9] Brodsky, id, at 171; Allen Ford & Ed Page, Reasonable Compensation: Continuous Controversy, 5 J. Corp. Tax’n 307, 323-24 (1979).

[10] See, e.g., Clymer, 47 T.C.M. at 1576. See also Charles P. McKenney, The Worth of a Man: A Study of Reasonable Compensation in Close Corporations, 38 S. Cal. L. Rev. 269, 274-75 (1965).

[11] Brodsky, supra note 1, at 170-71.