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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]38(租税判例百選[第4版]33) 事業所得と給与所得の区別(要旨)

最高裁昭和56年4月24日判決・最高裁民事判例集35巻3号672頁)

 

〈事案の概要〉

 弁護士であるXが,昭和42年分から昭和44年分の各所得税の申告にあたって,顧問料収入を給与所得にかかる収入として確定申告をしたところ,税務署長Yが,これはいずれも事業所得にかかる収入として更正処分行いました。これに対し,Xは不服申し立てを経て各更正処分の取消しを求めて出訴しました。

 この顧問料収入は,顧問契約上は勤務時間や勤務場所についての定めはなく,顧問契約による法律相談等は電話ないし法律事務所でもっぱら口頭で行うものであり,顧問料は相談等の回数等に関わらず毎月,定時に定額が支払われているというものです。

 

 

〈納税者の主張〉

 本件顧問契約の場合,「その業務内容(法律相談等)の特殊性から,労務の提供の方法が場所的,時間的に使用者に拘束されない点で一般の労働者と異なるにすぎず,右各会社から求められた相談,鑑定等を理由なく拒否できない点で拘束されており,その拘束に対する対価として,実際に労務の提供がなくても定時に定額の顧問料を受けるのであるから本件顧問料収入は給与所得である。」

 

〈課税庁の主張〉

 「給与所得とは雇傭契約又はこれに準ずる関係に基づいて,使用者に専属的に業務に従事して提供した労務の対価として使用者から支払いを受ける給付にかかる所得であり,事業所得とは,自己の危険と計算において独立に営まれる業務で,営利性有償性を有し,かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるもの(事業)から生ずる所得をいい,両者の本質的差異は,報酬と対価関係に立つ労務の提供が他人の指揮命令に服して専属的になされるか否かにある。

 そして弁護士等のいわゆる自由職業は,特殊の学識経験,才能に基づいて精神的労務を提供とするもので,主として自己の労力に依存しながら従属的関係によらずに経済的利益の獲得を目的とするものであるから,その職業の特質からみて,弁護士等が物的人的設備を擁し,一般顧客の求めに応じて自己の有する学識経験に基づいてなす労務提供の対価として得た報酬は,雇傭契約によって受けたことの明らかな個々の報酬を除いて,原則としてその職業にかかる収入を構成すると解するのが相当である。」

 そして,本件顧問契約は,Xが独立的,継続的に営む弁護士業務の一環としてなしたものと認めるのが相当である。

 

〈一審判決(横浜地裁昭和50年4月1日判決・行政事件裁判例集26巻4号483頁)〉

請求棄却

所得税法二七条にいう事業とは,自己の危険と計算において独立に営まれる業務で営利性有償性を有し,かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものと解せられ,事業所得とは右事業から生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものは除く。)であり,これに対し,同法二八条にいう給与等とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服し,これに従属して提供した労務の対価として使用者から支払いを受ける給付と解され,給与所得とは右給与等に係る所得である。」

「各会社と原告との間の本件各顧問契約において原告が負担している債務は法律相談等に応ずることであり,右本来の弁護士業の業務と同一の内容であること,右各顧問契約には勤務時間,勤務場所についての定めがなく,昭和四二年から同四四年までの間,常時数社と締結されている状態であること,右各顧問契約の具体的内容とその履行の態様は,原告が前記各社が随時質問してくる法律問題について依頼のあった都度,原告の法律事務所において,多くは電話により,専ら口頭で法律相談等に応ずるというものであり,その相談回数は会社によって異なるが,月に二,三回というところ,半年に一回,年に一回というところもあること,前記各会社においてはいずれも,本件顧問料は弁護士の業務に関する報酬に該当するものとして一〇%の所得税源泉徴収のうえ(所得税法二〇四条,二〇五条)これを原告に支払っていること」という事実を総合すれば,本件顧問契約はいずれも弁護士業の一環としてなされていると認めることが相当である。

「原告は,その弁護士業における一般顧客の求めに応じ,自己の危険と計算に基づき,幾社との間でも本件と同様の内容,態様の顧問契約を締結することができ,現に常時数社との間で同様の顧問契約を結んでいるのであり,右の方法により弁護士業そのものを営んでいるというべきであって,本件のような顧問契約を締結するのは本来の弁護士の経営方法にすぎないとみるのが相当である。」

 原告は,本件顧問料が毎月,定時,定額が支払われていることを以て本件顧問料を給与所得であると主張しているが,「それは相談料(顧問料)の支払方法がその相談に拘りなく月ぎめで定額であるにすぎず,右事実のみを根拠として給与所得に該当するということはできない」。

 前記認定事実を総合すると,「原告が相談等を依頼された場合にこれを拒否すれば顧問契約を解除されるおそれがあるという程度に右依頼に拘束されるとしても,労務の提供(相談等に応ずること)が前記会社の指揮命令に服しているといえる程度に時間的または場所的に拘束されているとは認められず,結局原告と右各会社との間における顧問契約関係の実態は雇傭関係ないしこれに準ずる関係ではないというべきである。」

 

 

控訴審判決(東京高裁昭和51年10月18日判決・行政事件判例集27巻10号1639頁)〉

控訴棄却

「一般に,所得税法に言う事業所得(同法第二七条等)とは,自己の計算と危険において対価をえて継続的に行われる業務から生ずる所得と観念すべきであり,他方,同法にいう給与所得(同法二八条)とは,雇傭関係またはこれに準ずるべき関係(例えば会社の役員等の委任関係の場合もある)に基づく非独立的労務の対価と観念すべきであって,この両者の異同は,所得の生ずる業務の遂行ないしは労務の提供が,前者は自己の計算と危険において独立性をもってなされるのに対し,後者は対価支払者の支配,監督に服して非独立的になされるとともに自己の計算と危険を伴わない点にある。しかしながら,右両者の特徴的要素は,各業務等につき個別的,具体的にみれば,濃淡の差異が存し,あるいは混在する場合があり,これにより生ずる所得が事業所得に該当するものか,給与所得に該当するかは各業務ないし労務及び所得の態様等を全体的に考察して判定すべきものである。もとより,同一人が事業所得と給与所得の双方を有する場合があることは論を待たないが,ある所得が定時に定額で取得されるとしても,右の一事をもって給与所得と断定することもできない。したがって,弁護士のいわゆる顧問料についても,それが事業所得であるか給与所得であるかを抽象的にいちがいに断定することは適当でなく,その顧問業務の具体的態様等に基づいて判断されるべきものである。」

 そして,認定された全事実によると,「本件顧問料は,それが定期に定額が支払われる点で通常の給与所得と共通性を有していることは否定できないけれども,本件顧問契約に基づき控訴人が行う業務の態様は顧問依頼先から監督,支配,介入等のなされる余地が殆どなく,独立性を有し,顧問依頼先と控訴人との関係を雇傭契約又はこれに準ずる関係と見ることは相当でなく」,その業務内容は控訴人が営む弁護士業務の一態様とみることができる。

 

 

〈上告理由〉

(長文のため省略。判例時報1001号27頁以下に掲載されています。)

 

 

〈上告審判決(最高裁昭和56年4月24日判決・最高裁民事判例集35巻3号672頁)〉

上告棄却

事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては,「租税負担の公平を図るため,所得を事業所得,給与所得等に分類し,その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨,目的に照らし,当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。したがって,弁護士の顧問料についても,これを一般的抽象的に事業所得又は給与所得のいずれかに分類すべきものではなく,その顧問業務の具体的態様に応じて,その法的性格を判断しなければならないが,その場合,判断の一応の基準として,両者を次のように区別するのが相当である。すなわち,事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお,給与所得については,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」

 そして,認定された全事実によると,本件顧問契約に基づいて上告人が行う業務は弁護士業務の一態様に過ぎないものであり,この業務に基づいて生じた本件顧問料収入は,給与所得ではなく事業所得にあたると認めるが相当である。