路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]4(租税判例百選[第4版]3) 課税要件法定主義ー政令への委任の限界(要旨)

東京高裁平成7年11月28日判決・行政事件判例集46巻10・11号1046頁)

 

〈事案の概要〉

Xは,売買を原因とする所有権移転登記をし,登録免許税法に基づき通常の税率により算定した登録免許税を納付しました。ところが,本件登記は,租税特別措置法が規定する軽減税率の適用対象となるものでした。その後,その軽減税率の規定が存在すると知ったXは,登記官Y1に対しその差額の還付を求めましたが,租税特別措置法施行規則に定めている本件登記申請書には知事証明書が添付されていないとの理由で還付には応じられないとのことでした。そのため,Xは,Y1に対し,知事証明書を添付したうえで,登録免許税法に基づきこの差額は過大納付額であるから還付するよう請求しましたが,過誤納付の事実は認められないので税務署長への還付の通知はできない旨の通知を受けました。

 そこで,Xは異議申立を経たうえで,Y1に対し本件通知の取消しを,国Y2に対してはその差額について不当利得返還請求を,それぞれ求めて出訴しました。

 当時の租税特別措置法の軽減税率規定は「……これらの登記にかかる登録免許税の税率は,政令に定めるところにより,登録免許税法第九条の規定にかかわらず,千分の二五とする。」となっており,これを受けて,同法施行令は,本件軽減税率規定は一定の日から一年以内に大蔵省令で定めるところにより登記を受ける場合に限り適用する旨を定めており,更にこれを受けた大蔵省令では,本件軽減税率規定の適用を受けようとする者は,その登記申請書に知事証明書を添付しなければならない旨を定めていました。

 租税判例百選で掲載された論点は,このうち,政令委任の限界についてです。

 

 

〈納税者の主張〉

「本件軽減規定自体は軽減税率を適用する要件として登記当事者及び登記原因の実質的内容という実体的要件を定めているのに過ぎないのであるから,命令でこれ以上の適用要件を定めることはできない。従って,本件手続施行令及び本件手続規則の定める知事証明書の添付という手続は,登記手続の細目を規定するにすぎず軽減税率適用のための租税上の適用要件を定めるものではないと解するべきである。」

「本件軽減規定の『政令の定めるところにより』という政令への委任は,きわめて概括的白紙委任であって,もしこれにより本件軽減規定自体が定める適用要件以上の要件を定めることが政令に委任されているのであれば,このような政令への委任は租税法律主義に違反する。」

 

〈登記官の主張〉

「本件軽減規定は,その政令委任部分において,軽減規定の適用を受けるための手続要件の細目を定めることを政令に委任しているのであって,本件手続施行令及び本件手続規則の定めは右委任の基づきその範囲内で規定されるものである。そして,本件軽減規定がこのように課税要件の細目の定めを政令に委任することは何ら租税法律主義に違反するものではない。」

 

〈国の主張〉

(租税判例百選掲載の論点とは異なる論点の主張であるので省略。興味があれば調べて読んでみてください。)

 

〈第一審判決(千葉地裁平成7年2月22日判決・判例時報1553号64頁)〉

一部(Y2に対する請求)認容,一部(Y1に対する請求)却下

 本件軽減規定は,「その文言上,本件政令委任部分の他には,手続的要件を充足しているかどうかを判断するための手掛かりはない。そして,右政令委任部分は,右のように簡単なものであり,それだけでは,これを積極に解するべきことが明らかであるとは認めがたい。」一方,租税特別措置法の他の規定と比較すれば,「前記のような意味の手続的要件を置く場合にはその趣旨を明らかに理解し得る文言でその旨が規定されているのであり」,租税特別措置法の登録免許税の特例に関する,本件軽減規定以外の規定はほとんどが,「大蔵省令で定めるところにより一定の期間内に登記を受けるものに限り軽減税率を適用する」という規定の仕方で,「手続事項を特例の適用要件としているものと解されなくはない文言が用いられているのである。そして,これらの規定令と対比すると,本件軽減規定が前記のような意味での手続的要件を充足すべきことを定め,その細目の定めを政令に委任しているものと理解するのは,一層困難であると言わざるを得ない。」

「仮に本件軽減規定が手続要件を置くことを定めていると解するとすれば,その場合には,本件軽減規定は,この点について『政令で定めるところにより』とだけ定めているのに過ぎないから,手続的要件の内容及び効果の定めをいわば白紙的に政令に委任するものと言わざるを得ない。そして,このような態様による政令への委任は,前記租税法律主義の原則上,有効なものとは認め難いというべきである」。

(そして,国に対する主張については却下されている。)

 

控訴審判決(XとY2が控訴し,確定している。東京高裁平成7年11月28日判決・行政事件判例集46巻10・11号1046頁)〉

控訴棄却

「いわゆる租税法律主義を規定したとされる憲法八四条のもとにおいては,租税の種類や課税の根拠のような基本的事項のみでなく,納税義務者,課税物件,課税標準,税率などの課税要件はもとより,賦課,納付,徴税の手続きもまた,法律により規定すべきものとされており(最高裁大法廷昭和三〇年三月二三日判決民集九巻三号三三六頁,最高裁大法廷昭和三七年二月二一日判決刑集一六巻二号一〇七頁),租税の優遇措置を定める場合や,課税要件として手続的な事項を定める場合も,これを法律により定めることを要するものである。そして,このような憲法の趣旨からすると,法律が租税に関し政令以下の法令により委任することが許されるのは,徴税手続の細目を委任するとか,あるいは,個別的・具体的な場合を限定して委任するなど,租税法律主義の本質を損なわないものに限られるものといわなければならない。すなわち,もし仮に手続的な課税要件を定めるのであれば,手続的な事項を課税要件とすること自体は法律で規定し,そのうえで課税要件となる手続きの細目を政令以下に委任すれば足りるのである。第一審被告国は,包括的な委任文言を採用して課税要件の追加自体を政令に委任しないと,変転してやまない経済現象に対処できない弊害が生じるとするが,前記のような既定の方法によったからといって,所論のような弊害が生じるとは考え難い。

 そして,租税法律主義の下で租税法規を解釈する場合には,ある事項を課税要件として追加するのかどうかについて法律に明文の規定がない場合,通常はその事項は課税要件ではないと解釈すべきものである。それにもかかわらず,『政令の定めるところによる』との抽象的な委任文言があることを根拠として,解釈によりある事項を課税要件として追加し,政令以下の法令においてその細目を規定することは,租税関係法規の解釈としては,許されるべきものではない。第一審被告国は,法律上手続的な事項が課税要件とされていないことと,政令への委任文言があることを根拠に,法律は手続的事項を課税要件としているものと解釈すべきであると主張する。しかし,手続的事項は手続的効果を有するにとどめ,これを課税要件としない立法政策があることを考慮すると,このような解釈は成り立ち得ないものである。

 そして,憲法の租税法律主義がこのようなものである以上,本件の委任文言は,その抽象的で限定のない文言にかかわらず,これを限定的に解釈すべきものであり,追加的な課税要件として手続的な事項を定めることの委任や,解釈により課税要件を追加しその細目を決定することに委任を含むものと解することはできない。」