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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]7(租税判例百選[第4版]6)自主財源主義―横浜県勝馬投票券発売税事件(要旨)

(国地方係争処理委員会平成13年7月24日勧告・判例タイムズ1073号128頁)

 

〈事案の概要〉

 横浜市は,平成12年12月14日,法定外普通税として,勝馬投票券発売税を新設することを内容とする条例改正案を可決しました。そして,横浜市は,同年21日に,総務大臣に対し,地方税法669条(昭和25年法律第226号)の規定に基づき,同税の新設にかかる協議の申出を行ったところ,総務大臣は,平成13年3月30日に同法671条に基づき,不同意としました。

 これに対し,横浜市長は不服として,同年4月25日に,国地方紛争処理委員会に,総務大臣は同法671条に基づき同意をすべきである旨の勧告を求めて申出ました。

 

 この事例にはいくつもの論点がありますが,租税判例百選に掲載されている主要な論点は,①中央競馬システムは地方税法671条3号の「国の経済施策」にあたるか,②中央競馬のシステムが「国の経済施策」に該当するとした場合,同税は国の施策に「照らして相当でない」と言えるか,です。

 

 

横浜市長の主張〉

①の論点について

総務大臣は,地方税法第六七一条第三号で定める『国の施策』について限定解釈をした上で,中央競馬により公益目的のために財政資金を確保する仕組みは特に重要な,又は強力に推進を必要とする重要な経済施策であり,同号で定める『国の施策』に該当すると言うが,国の経済施策や国の経済活動の内容・範囲を明確にしていない。何をもって特に重要な『国の経済施策』とするのか,何を強力に推進を必要とする『国の経済施策』とするのかについては,定量化は無論のこと,施策によっては定量化するなどの基準をあらかじめ示しておき,協議の申し出のあった新税をこれに当てはめ,理由にその結果を明示すべきである。

 前川尚美ほか『地方税(各論)Ⅰ』では,『国の経済施策とは,きわめて多義的かつ流動的な概念であり,一義的に定めることはできないが,少なくとも閣議決定等内閣全体の指示する施策であって,単に一省庁のみの施策や考え方によるものではない』とされている。日本中央競馬会特殊法人であって国の省庁には当たらず,また,中央競馬による畜産振興等を目的とする施策は誰が見ても国の経済施策のうち特に重要な背策や制度には当たらない。

 地方税法第六七一条各号で定める三つの消極事由に該当しない限り原則として同意すべきことになった新しい行政システムの下では,同条第三号で定める『国の経済施策』の意義はもっと厳格に解釈することが求められており,地方税法第六七一条第一号及び第二号を限定的に規定している立法意図や課税自主権の尊重の立場から,租税施策は同条第三号で定める『国の経済施策』には含まれないと解するべきである。」

②の論点について

地方税法第六七一条第三号に定める『国の経済施策に照らして相当でない』とは,地方分権改革がなされた新しい行政システムの下では,少なくとも国の重要かつ基本的な経済施策として位置づけられているものに重大・明白なマイナスの影響を与えるものに限定されるべきである。

 勝馬投票券発売税は,第一国庫納付金を除いて課税標準としており,第一国庫納付金やその配分の仕組みを損なうものではない。第二国庫納付金は剰余金が発生した場合に納付されるもので,当初から予定されているものではなく,様々な諸経費により常に変動するものであり,公益目的のために財政資金を確保する基本的な仕組みを構成するものではない。したがって,勝馬投票券発売税が中央競馬による国庫納付金や配分の基本的仕組みを損なうというのは失当であり,地方税法第六七一条第三号で定める『国の経済施策に照らして適当でない』場合には該当しない。

 本件不同意は,勝馬投票券発売税に課税の合理性がないことを不同意事由に挙げているが,地方税法における法定外普通税の同意の判断に当たっては,財源の存在及び財政需要の存在という積極要件が削除され,不必要となっている。課税の合理性は横浜市の判断に任され,不同意にできる事由が除外されていることで,明らかに他事考慮である。また,総務大臣勝馬投票券販売税についてその課税の目的を総合判断の中に加え,勝馬投票券発売税は国の経済施策に照らして適当でないとして不同意としていることは,明らかに放棄を逸脱した他事考慮であり違法である。」

 

〈国の主張〉

①の論点について

「経済施策は経済施策に基づいて行われるという意味で経済施策の下位概念に位置付けられ,国の経済施策とは,一般に,経済活動に関して国の各省庁が施すべき施策をいう。一般に,『国・地方公共団体がその目的を達成するために行う経済活動』とされており,国・地方公共団体の経済活動である財政は経済に含まれ得るものである。財政施策は経済活動に含まれ,財政資金の確保の根幹である租税施策も含まれ得る。したがって,特定の仕組みで財政資金を確保しこれを一定の公益目的に使用することも,地方税法第六七一条第三号で定める『国の経済施策』に含まれ得る。

 ただし,経済活動に関して拡張症が行う施策は広く経済活動全体に及んでいることから,経済活動に関して各省庁が行う施策はすべて『国の経済施策』に当たるとすれば,法定外普通税に同意する余地がほとんどなくなってしまうこととなるため,地方税法第六七一条第三号で定める『国の経済施策』とは,単に経済活動に関して各省庁が行う施策のすべてを含むものと考えるのは相当ではなく,特に重要な,又は強力に推進を必要とするものに限られる。」

 中央競馬は,国から全額出資を受けるとともに,農林水産省の監督を受けている法人である。また,競馬法に基づいて中央競馬を実施し,その収益を国庫納付金にあてる制度を設けて運営する仕組みは,農林水産省が所管する国の経済施策に該当する。この国庫納入金は,畜産振興及び民間福祉事業の振興のための財政資金に充てられており,中央競馬はこれを目的として設けられた特別な制度である為,国の経済施策の内,特に重要な施策に該当するものと考えられ,「国の経済施策」に該当する。

②の論点について

「『国の経済施策に照らして適当でない』かどうかを判断するに当たっては,課税の目的,内容等の諸般の事情と国の経済施策に与える影響とについて総合的に判断する必要がある。

 総務大臣としては,『課税の合理性』概念に着目し,それが認められないことを理由として地方税法第六七一条第三号で定める消極事由に該当すると判断しているのではなく,国の経済施策に重要な影響を認められる場合でもなお,『特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由』があれば『照らして適当でない』とは言えないという考え方に立って,『特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由』を考慮要素にし,国の経済施策に影響を与える法定外税についても課税の余地を広げている。一方,国の経済施策に影響を与える法定外税については,そもそも『特別の負担を求めるべき合理的な課税の理由』について考慮する必要はない。」

 勝馬投票券への課税は,畜産振興及び民間社会福祉事業に必要な経費に充てるとされている国庫納付金への配分に影響を与える。また,第一国庫納付金の納付率は経営状況によっては,立法政策により変更され得るものであるから,第一国庫納付金の額が課税標準から除外されていると言っても,同税の課税が第一国庫納付金の水準に影響を与える可能性があることに変わりはない。

 さらに,同税は,「法律によって国と地方公共団体の間の公営競技施行権を配分することにより定められている国と地方との間の財政的秩序を損なうものであると考えられるし,日本中央競馬会の施設が所在する地方公共団体すべてが同様の課税を行った場合や日本中央競馬会が赤字の場合にも課税された場合には,中央競馬による公益目的の為に在世資金を確保する基本的な仕組みを損なうことになるため,勝馬投票券販売税は『国の経済施策』に重要な影響を及ぼすと認められる。」

 

〈勧告(国地方係争処理委員会平成13年7月24日勧告・判例タイムズ1073号128頁)〉総務大臣は,横浜市勝馬投票券販売税新設に係る協議の申出につき,二週間以内に横浜市との協議を再開することを勧告する。

①の論点について

 当委員会としても,国の主張の通り,地方税法第六七一条第三号に関して,「国の経済施策」とは,単に経済活動に関して各省庁が行う施策のすべてを含むものと考えるのは相当ではなく,特に重要な,又は強力に推進を必要とするものに限られるという,限定解釈は適切と考える。

「もっとも,『特に重要なもの』という限定的解釈をするにしても,さらに,何が『特に重要なもの』に該当するのかという問題が残る。

この点に関しては,一律の判断基準を示すことは現段階では困難であるが,一般的に言って,国民の経済生活に直接かつ重要な影響を及ぼす経済施策は,これに当たると考える。そして,本件のように,一定の政策の実現のための財政資金の確保が問題となっている経済施策に関しては,当該政策がとられた経緯や現時点での評価,確保される資金の量を重要性の判断基準とするのが適切である。

この点について,総務大臣は,競馬の実施及び国庫納付金の制度が法律に基づくものであることを国の重要な経済施策に該当することの一つの根拠として挙げているが,法律で定める理由は様々であり,競馬の実施は,刑法によって賭博が禁止されているために,法律の根拠がなければ実現できないというところに重点があると解するのが相当である。問題は,法律で定められているという形式的な観点からではなく,むしろ中央競馬によって確保される財政資金が,どのような経済施策に投入されるのかという実質面にあるものと考えるべきであり,当委員会は,このような実質面の問題をとらえて国民の経済生活に及ぼす影響の重要性を判断すべきであると考える。」

 このような当委員会の考え方に基づき検討するに,「日本中央競馬会社の仕組みは,国の財政施策であり,国の経済施策に該当すると解される。」また,「日本中央競馬開放による国の財政資金の確保は,国の経済施策の中でも特に重要なものであり,地方税法第六七一条第三号に定める『国の経済施策』に該当するものと認められる。」

②の論点について

地方税法第六七一条第三号では,法定外普通税の新設に係る協議の申出に対する同意の消極要件として『国の経済施策に照らして適当でない』と規定していることから,ここでいう『適当でない』の意味は,協議の申出の対象である法定外普通税を課すことによって国の経済施策に負の影響を与えることであり,すなわち国の経済施策の推進に障害となる結果,適当でないと判断される場合を指すものであるということは,その文理上明らかである。

 しかしながら,国の経済施策に負の影響を与える度合いは多様であり,仮にこの影響の度合いの大小を問わず,少しでも影響を及ぼす場合には,地方税法第六七一条第三号で定める消極事由に該当するものと解すると,地方公共団体が法定外普通税を課することによって何らかの意味で国の経済施策に負の影響を与える可能性があると考えられることから,ほとんど国の経済施策の推進を阻害するおそれがあるとされかねず,妥当な解釈とは考えられない。したがって,先に地方税法第六七一条第三号で定める『経済施策』の解釈に当たって『重要な』経済施策に限定して解すべきものとした趣旨に沿って,同号で定める『適当でない』の解釈についても『重要な』影響を及ぼす場合との限定を付するのが相当と考える。」

「重要なことは,国の経済施策に対する重要な負の影響について判断する際には,できる限り客観的な基準によるべきことである。とりわけ本件のような財政資金の確保に係る施策に対する重要な負の影響は,その及ぼす量的影響の程度が客観的な判断基準になるものと考えられ,この点をまず検討すべきである。次いで,その影響が質的ないし制度的に根本的な変化を招来するに等しいと評価されるか否か等の検討を行い,量的影響との総合判断の結果として,重要な負の影響があると認めるべき場合があるという基準で考えるべきものと解するのが相当である。」

「まず,勝馬投票券発売税による量的影響については,」徴収予定の税額と,国の確保した財政資金の総額に照らした場合に,「重要な負の影響を与えることにはならないことは明らかである。

しかし,すべての関係市町村が,横浜市勝馬投票券発売税とまったく同様の法定外普通税を日本中央競馬会に課したと仮定すると,その税額は約二〇〇億円になる」が,「これをもって,我が国の畜産振興事業に係る経済施策に需要な負の影響を与えることになると認めることになるかどうかの問題がある。さらに,日本中央競馬会裁量に係る特別振興事業だけに限り,かつ特別積立金との比率」を見ると,「影響は少なくないといえよう。ただし,以上の数字は,最大のものであって,関係全市町村が横浜市と全く同様の法定外普通税の新設に及ぶことを前提とするのは適切でなく,どの程度を見込むのが合理的であるかどうかの問題がある。

次に,勝馬投票券発売税による制度的影響については,日本中央競馬会が赤字でない場合には,」「国の経済施策に重要な負の影響を与えるものと解することができない。しかしながら,本件勝馬投票券発売税は日本中央競馬会の経理が赤字の場合にも課税されることになっていると解され,」また同税と「同様の法定外普通税が関係市町村で広く課されることとなると,」「施策に重要な負の影響を及ぼすこととなるおそれがあるか否かの検討が必要である。

以上のように,検討を加えるべき重要な問題があるが,これらの点について,当事者から当委員会に提出された資料及び当委員会による公開審査の結果によれば,総務大臣横浜市との間には,地方税法第六七一条が予定する形での協議がそれまでなされてこなかったことが認められる。」

「以上のしだいで,当委員会は,本件勝馬投票券発売税につき,総務大臣はこれまでに指摘した事項を基に,横浜市となお協議を重ね,その結果を待って,再度判断すべきものと考える。」