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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]112(租税判例百選[第4版]108) 源泉徴収と確定申告(要旨)

最高裁平成4年2月18日判決・最高裁民事判例集46巻2号77頁)

 

〈事案の概要〉

 A社の従業員であったXらは,A社を退職した際に,一定額の金員の支給を受けましたが,A社はこれを給与の支給に当たるとして源泉徴収を行い,国に納付しました。Xらは,これは給与所得ではなく一時所得に当たるとして確定申告を行い,誤って源泉徴収された税額の一部の還付を求めました。しかし,これに対して,税務署長Yらは,これは給与所得に当たるとして更正処分を行いました。そこでXらは,これは一時所得に当たるとして更正処分の取消を求めて出訴しました。

 

 

〈納税者の主張〉

 本件支給額は一時所得である。

「本件収入が一時所得の収入金額を構成する場合には,それは源泉徴収の対象とはならないものであるから,日光貿易(A社のこと。筆者注)がした源泉徴収は誤りであるということになるが,本件のように既に源泉徴収,納付がされている場合に,これを誤徴収,ご納付をして税務署長が日光貿易に還付加算金を付けて還付し,日光貿易がこれを原告らに追加支払をし,更に原告らが右源泉徴収はなかったものとして改めて確定申告をすべきであるということは,結果的に申告所得税額に差異を生じないにもかかわらず,いたずらに手続を複雑にするだけである。もともと源泉徴収の制度は,所得税の徴税手続を簡略化して徴税費を節約し,徴税の時期を早めるために考案されて採用されたものであり,所詮徴税の便宜のための制度に過ぎないのであるから,本件のような場合には,原告らにおいて,既になされた源泉徴収,納付の結果を援用するという便宜的取り扱いも許されてしかるべきである。」

 

〈税務署長の主張〉

「原告らは本件収入は給与所得ではなく一時所得又は退職所得を構成すると主張するが,以下に述べるとおり,本件更正処分等に係る納税額(本件収入を給与所得として計算した納税額)は,本件収入を一時所得又は退職所得として計算した場合の納税額を下回るのであるから,いずれに本件更正処分等は適法である。」

「受給者の年税として所得税債務と支払者の源泉徴収債務とは,債務の成立時期,確定方法が全く別個であり,国に対する債務者が異なっている点においてその同一性を論ずる余地はない。

 しかし,受給者が確定申告をする場合には,源泉徴収の対象となった所得は他の所得と合わせて課税所得金額として計算し,他方,源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額を算出税額から控除することになっている(所得税法120条)から,源泉徴収の段階で徴収・納付された所得金額を申告納税の段階で改めて取り込んだうえで再計算することになる。これは,所得税の確定申告においては,歴年末を基準として,年間における所得のすべてを総合して計算した上,税率を適用して税額を算出し,これから別途納付した税額を控除して納付すべき金額が確定することになっていることによるものであるが,右再計算において,前記控除項目としての源泉徴収をされた又はされるべき所得金額は,実際に源泉徴収の対象となったか否かには関係なく,各種所得につき所得税法上正当に徴収された又は徴収されるべきそれをいうものと解するのが相当であり,現実にいくらの税額が源泉徴収されたかは問うところではない。

 また,現行の源泉徴収制度の下においては,課徴権者(国),徴収権者(支払者)及び源泉徴収義務者(受給者)の三者間の関係は厳格に分けられ,源泉徴収税額に不服のある受給者は,支払者において法律上許容され得ない控除をなしその残額のみを支払った債務の一部不履行であるとして,支払者に対し,当該控除額に相当する債務の履行を請求することができ,かつ,この方法をもってしてのみ課徴金の回収を図ることができるものと解されており,課徴権者である国と直接の関係に立つ者は支払者であって,受給者は,制度上も法律上も国と直接の関係に立つものではない。このように,源泉所得税と申告所得税との間には法律上の同一性がないのであるから,申告所得税の計算に当たって両者の間の清算調整をする余地はなく,原告らのいう便宜的取扱いを許容することはできない。」

 

〈第一審判決(名古屋地裁平成元年10月20日判決・判例タイムズ718号116頁)〉請求棄却

「原告らは,日光貿易は,本件収入を原告らに支給する際,それが一時所得であれば源泉徴収の対象にならないものであるにもかかわらず,誤って別表3の源泉徴収税額欄記載のとおりの源泉徴収を行い、これをすでに納付しているのであるから,このような場合には,原告らにおいて,実際にされた源泉徴収,納付の結果を申告納税額の計算に当たり援用する(すなわち,誤って徴収・納付された源泉徴収税額を控除・還付の対象とする。)ことが許されてしかるべきであり,そうすれば,本件更正処分等に係る納税額は,本件収入が一時所得である場合における原告らの納税額をいずれも上回ることになる旨主張する。

 そこで、原告らの右主張の当否について検討することとし,まず,源泉徴収による所得税の基本的な法律関係を見ると,次のとおりである。」

「泉徴収による所得税に関しては,課徴権者と直接の対立当事者関係に立つのは源泉徴収義務者たる支払者のみであって,租税負担者たる受給者は,源泉徴収による所得税の法律関係における当事者にはならないものであり,国と支払者との間の法律関係と支払者と受給者との間の法律関係(前者は公法上の法律関係,後者は私法上の法律関係である。)が別個に並存しており,源泉徴収による所得税と申告納税による所得税とは,納税義務者,納税義務の成立・確定の時期および手続等において全く異なるものである。したがって,両租税債務は,法律上同一性がない全く別個のものというべきである。

 ところで,所得税法上,受給者が確定申告をする場合には,源泉徴収の対象となった給与等の所得は他の所得と合わせて課税総所得金額を構成し,右給与等の所得について源泉徴収をされたまたはされるべき所得税額は算出税額から控除する(同法120条1項。控除しきれない部分は還付する(同胞138条1項))こととされている。

 収税額に不足がある場合でも、確定申告を機会に源泉徴収漏れの税額が受給者から直接徴収されることなく,所得税法上正当な税額が控除の対象となることとされていることからも明らかである。

 したがって,確定申告を行おうとする受給者が,先に源泉徴収による所得税を不当又は過大に徴収されている場合であっても,正当な源泉徴収税額との差額の金員の還付を求めることができるのは支払者のみであって,当該受給者は,支払者に対して当該差額に相当する部分の給付を求めることができるのは格別,確定申告に際して国に対して直接その求めることができないことは明らかである。

 以上のとおりであるから,本件収入が一時所得であるとした場合には,日光貿易が徴収・納付した源泉徴収税額に相当する金員は同社が誤って徴収・納付したものであって,これを原告らが所得税の申告納税の際に控除の対象とすることができず,この点に関する原告らの主張は失当である。」

 

控訴審判決(名古屋高裁平成2年6月28日判決・最高裁民事判例集46巻2号107頁)〉

控訴棄却

「現行の源泉徴収制度のもとにおいて,受給者に,源泉徴収されるべき所得税の額について支払者と協議する機会が与えられていないことは,控訴人ら主張のとおりである。しかしながら,そもそも,所得税源泉徴収は,所得税法等法令の定めるところに従って画一的に処理されるべきものであり,その性質上源泉徴収の対象となるべきことの明らかの所得の種類は法定され,支払われた(または支払われるべき)所得の額と法令の定める税率等から支払者の徴収すべき受給者の所得税の額は法律上当然に決定されるものである。したがって,源泉徴収されるべき所得税の額について,受給者に支払者と協議する機会が与えられていないのは制度上当然のことであり,そのことが控訴人ら主張の便宜的取扱いを認めるべき根拠となるものではない。

 また,右に述べた源泉徴収の仕組みからして,受給者は,給与等の支払時期に源泉徴収された所得税の額が記載された給与明細書の交付を受け,これを所得税法等に照らして検討することによって,現実に徴収された所得税の額が適正なものであるかどうかを知り得るものというべきである。したがって,受給者に『徴収されるべき所得税の額』を知りうる機会が与えられていないことを前提とする控訴人らの前記主張は既にその前提において失当である。

 そして,原判決が説示するとおり,源泉徴収の場面における課税権者たる国と源泉徴収義務者たる支払者との法律関係と,申告納税の場面における国と申告者たる銃勇者との間の法律関係とは全く異なるものというべきであるから,源泉徴収の段階において,支払者によって徴収,納付された所得税の額の過不足を,申告納税たる確定申告の際に,受給者において国との関係で生産調整することは,現行法上許されていないものと解するべきである。したがって,仮に控訴人ら主張の本件収入が一時所得であり,源泉徴収されるべき所得税の額に過不足が生じていたものとしても,現行の源泉徴収制度の仕組上控訴人ら主張に係る便宜的取り扱いを認めることはできないものと言わざるを得ない。」

 

〈上告理由〉

(長いので省略します。判例タイムズ803号71頁以下に掲載されているので,興味のある方はそれを読んでみてください。)

 

最高裁判決(最高裁平成4年2月18日判決・最高裁民事判例集46巻2号77頁)〉

上告棄却

所得税法「120条1項5号にいう『源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額』とは、所得税法上の源泉徴収の規定(第四編)に基づき正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するものであり,給与その他の所得についてその支払者がした所得税源泉徴収に誤りがある場合に,その受給者が,右確定申告の手続において,支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は右誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないものと解するのが相当である。けだし、所得税法上、源泉徴収における所得税(以下『源泉所得税』という。)について聴衆・納付の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ,原判示のとおり,その納税義務は,当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し,これと並存するものであり、そして,源泉所得税の徴収・納付に不足がある場合には,その不足分について,税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(221条),支払者は源泉納税義務者たる受給者に対して求償すべきものとされており(222条),また,源泉所得税の徴収・納付に誤りがある場合には,支払者は国に対し当該誤納付金の還付を請求することができ(国税通則法56条),他方,受給者は、何ら特別の手続を経ることを要せず直ちに支払者に対し,本来の債務の一部不履行を理由として,誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができるのである(最高裁昭和43年(オ)第258号同45念12月24日第一小法廷判決・民集24巻13号2243頁参照)。このように,源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく,源泉所得税の納税に関しては,国と法律関係を有するのは支払者のみで,受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、前記源泉徴収税額の控除の規定は,申告により納付すべき税額の計算に当たり,算出所得税額から右源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することとし,これによる源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものと解されるのであり,右税額の計算に当たり,源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うことは,所得税法の予定するところではない。のみならず,給与等の支払を受けるに当たり誤って源泉徴収をされた(給与等を不当に一部天引控除された)受給者は,その不足分を即時勝つ直接に支払者に請求して追加支払を受ければ足りるのであるから,右のように解しても,その者の権利救済上支障は生じないものといわなければならない。」