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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]118(租税判例百選[第4版]120)審理の対象―理由の差替え(要旨)

最高裁昭和56年7月14日判決・最高裁民事判例集35巻5号901頁)

 

〈事案の概要〉

 Xは,法人税の申告の際に,不動産の売却について,取得価額は7600万9600円,売却額は7000万円であるとして損失を計上しました。しかし税務署長Yは,取得価額は6000万円であるとし譲渡益が生じていると更正処分を行いました。

 これに対し,Xは処分の取消しを求めて出訴しました。第一審の弁論手続中に,Yは,売却額は実は9450万円であることが判明し仮にX主張の取得価額が認められたとしても譲渡益は1000万円を上回ることになるので更正処分には違法はない,という追加抗弁を主張しています。この追加抗弁は認められるかが,この事案の論点となっています。

 

 

〈納税者の主張〉

 不動産の取得価額は7600万9600円,売却額は7000万円である。

仮に主張が認められないとしても「本件は青色申告書に対する更正処分の適否が争われているものであるから,その審理は被告が更正処分をするに当り理由とした事実の存否または法律適用の可否に限定さるべきであり,右処分の理由としていなかった別個の事実を,本件更正処分維持の為に追加抗弁として主張することは,事実上新たな差異更正処分をするにほかならない。」

 

〈税務署長の主張〉

行政訴訟事件にあっては,その性質に反しないかぎり民訴法の規定の適用があるものとされているところ,その公益との深いかかわりのゆえに,行訴法には特に職権調査の規定(同法24条)が設けられ,裁判所に対し真実発見のため,その権限を行使することを認め,その限度で民訴法の原則である弁論主義を排除しているのであるから,単に形式上の理由のみで,訴訟の結果を左右すべき本件追加抗弁のような重要な攻撃防御方法を却下することは許されない。」

「課税処分審理の対象は,租税債務たる所得金額あるいは税額が客観的に存在するか否かにある。従って課税処分の認定した所得金額が客観的に存在すれば,当該処分は適法であり,処分時の認識判断に誤りがあったとしても,右処分の違法を来すものではない。」

 

〈第一審判決(京都地裁昭和49年3月15日判決・行政事件判例集25巻3号142頁)〉

処分の一部取消し

(追加抗弁の許否についてのみ掲載します。)

「被告は追加抗弁として前出第四のとおり主張するが,この主張事実は本係争年度分の青色申告に対する被告の更正処分の理由として通知書に附記されなかった事実であり,青色申告に対する更正処分に理由附記を要する趣旨からすれば,附記理由以外の事実を以て更正処分の正当性を根拠づけることを許さないものと解すべきであるから,被告が附記以外の追加抗弁事実を主張することは(その事実があるとしても,それを再更正処分の理由とした場合を除き)許されない。」

 

控訴審判決(大阪高裁昭和52年1月27日判決・行政事件判例集28巻1=2号22頁)〉

請求認容(控訴人はY)

(追加抗弁の許否についてのみ掲載します。)

原審の弁論の経緯からすれば,「控訴人が本件準備手続きにおいて右追加主張を提出しなかったのは,控訴人の故意又は重大な過失に基づくとはいえないのみならず,本件訴訟の経過に照らすときは,右追加主張の当否につき判断をなすことは,別に著しく本件訴訟を遅滞せしめるとも考えられないから,右追加主張に関し民事訴訟法第255条本文の適用があるとはなし難く,控訴人において右追加主張をなすことは,この面においては許されるといわなければならない。」

「元来,更正処分取消訴訟は,租税債務不存在確認訴訟の性質を有するのであり,青色申告書によって確定された法人税に関する更正処分取消訴訟においても,その事実上の争点は,当該法人の当該事業年度の所得金額の存否であって,更正処分に付された更正理由の存否ではないから,当該付記理由による所得金額の存在は認められないけれども,その附記理由以外の理由によって,当該法人につき当該事業年度の新たな所得の存在が認められ,結局,更正処分において認定した所得金額よりも多額の所得金額が認定される場合においては,当該更正処分は違法でないということに帰着するわけである。この点につき,前記更正処分の附記理由との対比において付言するに,右の更正処分において理由の附記が認められる所以は,当該更正処分をなす者の判断を慎重にならしめて,その合理性を担保し,処分者の恣意の抑制を図るとともに,処分の相手方に対し,処分の理由を知らせて,不服申立の便宜を与えるためであると解せられる。従って,右の理由附記は,右の趣旨・目的を達し得る程度に記載されることが必要であって,その趣旨・目的を達し得ない程度の理由附記しかなされていないときは,当該更正処分に瑕疵ある者として,その一事により,当該更正処分は失効さるべく,しかも,その瑕疵は,爾後において治癒され得ない性質ののものと解さざるを得ないのである。ところが,これと異なり,その附記された理由は,右の趣旨・目的を達し得る程度に記載されていて,その理由附記という面においては,何らの瑕疵もなく,有効である更正処分の場合において,更にすすんで,その次の問題として,当該更正処分において認定した所得金額の存否ということになれば,それは,右の理由附記に関する問題とは,全く別個の問題であって,右理由附記に関する是非の議論の立場を離れ,別の見地から独自に判断すべき問題である。」

 本件の場合のXの見解は,「格別の法令上の根拠がないにも拘らず,前記の趣旨・目的を有するにすぎないと解さるべき更正処分の理由附記に,その趣旨・目的を超える強い意味付けを与え,必要以上に課税庁を拘束して,租税行政の偏頗化を招き,現在の申告納税制度下において,不誠実なる納税義務者を不当に利する結果を招来するものであって,到底左袒することができない。そうすると,更正処分取消訴訟において,更正処分庁が,更正処分に附記した理由によっては当該更正処分を維持し難い場合に,右附記理由以外の理由による当該納税義務者の当該事業年度の新たな所得金額の存在を主張・立証し,以て当該更正処分において認定した所得金額以上の所得金額の存在を裁判所に認容させ,紛争中の未確定の当該更正処分の維持を図ることは,当然に許容されるといわなければならない。」

 

〈上告理由〉(上告人はX)

「原判決の見解は,すべて最判昭和47年12月5日第三小法廷判決(民集第26巻第10号1795頁)を無視した判決といわねばならない。即ち,右最高裁判決は,判決要旨第二点において,更正処分の瑕疵の治癒に関し,『更正に理由附記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることに徴して考えるならば,処分庁と異なる機関の行為により附記理由の不備の瑕疵が治癒されるとすることは,処分そのものの慎重,合理性を確保する目的にそわないばかりでなく,処分の相手方としても審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは,それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。そして,更正が付記理由の不備のゆえに訴訟で取り消されるときは,更正期間の制限により新たな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから,審査裁決に理由が附記されたからといって,更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。それゆえ,更正における附記理由不備の瑕疵は,後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても,それにより治癒されるものではないと解すべきである』と述べているのである。従って,以下の理由の通り審査裁決の延長上にある取消訴訟においても,同一の理由が当てはまるものである。

 そもそも,青色申告の更正処分に理由附記の必要とされるのは,処分庁に更正理由を附記せしめて処分庁の判断の慎重,合理性を担保して,その恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的とするものであることは,つとに判例及び学説により認められて来たところである。このような考え方の下に,更正処分の理由附記の不備を理由として更正処分を取消した例は枚挙にいとまがないのである。

 そして,また,更正処分の理由吹きの趣旨が右のようなものであるとすれば,前示最判昭和47年12月25日判決が,『青色申告についてした更正処分の理由附記の不備の瑕疵は,同処分に対する審査裁決において,処分理由が明らかにされた場合であっても,治癒されないと解すべきである』と判示したことは極めて正当なことであるといわねばならない。

 さらに,前記最判をふえんして解釈すれば,青色申告の更正処分は審査採決の段階はもとより,その取消訴訟においても,審査庁もしくは取消訴訟における被告が,更正処分の理由附記とは別の新たな理由をもって,更正処分を維持しようとすることは認められないというべきである。

 蓋し,そう解しないと更正もしくは審査裁決において,適当に理由を附記しておいて,審査裁決もしくは取消訴訟において,新たにやり直しすることが可能であり,理由附記制度及び前記判決自体が無意義となるからである。また,審査裁決もしくは取消訴訟で新たな理由の追加を許すとすれば,更正処分の理由を相手方に知らせて,不服申立の便宜を与えることを目的とする理由附記制度の目的を達することができないからである。」

 

最高裁判決(最高裁昭和56年7月14日判決・最高裁民事判例集35巻5号901頁)〉

上告棄却

 本件のような場合に,「被上告人に本件追加主張の提出を許しても,右更正処分を争うにつき被処分者たる上告人に格別の不利益を与えるものではないから,一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかはともかく,被上告人が本件追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は,結論において正当として是認することができる。そして,右のように解しても,所論引用の判例の趣旨に反するものではない。」