路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

役員給与(アメリカ法)9ー「給与又はその他の報酬」の経費算入の可否をめぐる判決の傾向

 以下では、「給与又はその他の報酬」の経費算入の可否をめぐる判決の全体的な流れを見ていきます。

 

1 Mayson事件第6巡回区控訴裁判所判決

 Mayson Manufacturing社が、役員であるMay(約37%の株式を保有)、Hoiser(12.5%の株式を保有)とPeterson(約18.7%の株式を保有)に1943年度に支払った報酬の経費算入の可否が争われた事案です。

 本判決は、金額基準における多要素基準の中で検討する要素を9つに整理している為、判決及び著作物において非常によく引用される判決の一つです。その要素とは、①被用者の資格、②被用者の役務の性質・程度・範囲、③事業の規模や複雑さ、④総所得及び純所得と当該給与との比較、⑤一般的な経済状況、⑥配当と当該給与との比較、⑦類似企業において類似の立場の者に支払われている報酬金額、⑧全従業員に対する給与支払方針、⑨役員の人数が制限されている小規模の会社の場合は当該被用者に過年度に支払った報酬の金額、です[1]

 これら各要素を挙げた後、本判決は、別々に項目を設けずに「これら3名の役員は経験を積んでおり非常に適任かつ有能な役員である。……3名の役員の報酬金額の比率と保有株の比率には緊密な関係はない。……」と連続して検討結果を述べていき、すべてを検討した結果租税裁判所の判断は明らかに誤っており破棄差し戻し、という結論を出しています。検討結果の内容については、紙幅の都合上割愛します。判決の中では、どの要素の検討結果は納税者と内国歳入庁長官のどちらに有利であるか、どの要素が重要視されているのか、については全く触れられていません。

このような判決のスタイルは、当時のほとんどの判決に見られるものであり、検討要素の内容、スタイルから、本判決は当時において典型的判決と考えられます。

 

2 McCandless事件請求裁判所判決

 Charles McCandless Tile Service社が、役員であるCharles S. McCandless(50%の株式を保有)と同じく役員であるCharles L. McCandless(50%の株式を保有)に支払われた報酬の事業経費算入が争われた事案です。なお、両名は親子の関係にあります。

事案の概要について、給与又はその他の報酬としての支払の経費算入の可否の問題領域において特に珍しい事実はなく、また前掲Mayson事件第6巡回区控訴裁判所判決と同じスタイルを採って、役務を提供していること及び金額基準の検討結果により、合理的と判断ました。

従来の判決であれば、以上の判断結果により、当該報酬の支払は合理的であり全額控除しうると判断されていました。しかし、本判決では、金額基準を検討した後に、「たとえ支払いが合理的と考えられても、その支払いの実質が報酬ではなく配当である限り控除できない」と述べ[2]、利益は出ているが配当が支払われていないことに着目して、報酬に配当が含まれていると判断しています。

本判決は、「自動的配当ルール」を適用したものとして非常によく知られています。自動的配当ルールの定義は、本判決内では述べられていないが、もし事業が成功している閉鎖会社が配当を支払っていない場合には、給与又はその他の報酬としての支払には、必然的に配当の要素が含まれているという考え方だと一般的には説明されています。

本判決以降、自動的配当ルールを採用した判決は出ていません。しかし後の判決に2つの影響を与えたといわれる。1つ目は、本判決以降は、裁判所は目的基準を従来よりも重要視するようになり、金額基準と目的基準の二重の基準を用いて判断する[3]という傾向が出てきたことです。2つ目は、裁判所は、資本収益(return on capital)の数値を従来よりも重要視するようになったということです。例えばNorCal Adjusters事件租税裁判所メモランダム判決[4]は、「賢明な企業家は、資本収益を生まない努力の追求を望まないだろう(McCandless事件請求裁判所判決)」と述べています。

更に、金額基準の検討の基準の一つである、独立投資家基準は、この自動的配当ルール及び本判決が発展して生まれた、とも言われています[5]

 

3 Elliotts事件第9巡回区控訴裁判所判決

 Elliotts社がCEOのElliotts(単独株主である)に対する1975年度及び1976年度の報酬の支払いの経費算入の可否が争われた事案です。

 本判決はまず、自動的配当ルールの問題点を3つ挙げて、適用しないことを明言しています[6]。その問題点とは、利益を上げた会社に配当支払いを求める法律は存在しないこと、利益を上げた会社の株主は配当の支払を求めるであろうという誤った前提を基礎にしていること、配当を支払わずに利益を留保させる方が好ましい場合があるということ、です。

 次に、多要素基準の要素を、①会社内での役割、②外部比較、③会社の特徴及び状態、④利益の対立、⑤内部整合性、の5つに整理して、各要素ごとに項目を設けて一つずつ検討しています。

 ①については、独立投資家は報酬支払いを惜しまないだろうと考え、②については他者の2、3倍の役務を提供していると認定しています。③については、租税裁判所は適切に判断していると述べます。

 ④については、主要な争点は、納税者である会社と従業員は、配当を給与に偽装することを許容するかもしれない関係にあるか、ということであると述べています[7]。さらに、本件のように単独株主への報酬の支払が争われている事案では「独立投資家の視点」からの検討が適切と述べています。「もし会社の利益が報酬の形をとって社外流出しているならば、支払の後は会社の利益は合理的な株主資本利益率を表さないので、したがって、独立投資家はその支払いにおそらく納得しないだろう。しかし、会社の自己資本利益率が独立投資家を満足させる程度に維持されているならば、経営者は相当の役務を提供していること及び会社の利益は偽装配当により吸い出されていない、ということを示す強力な証拠となる[8]。」実際の検討では、独立投資家は、係争年度の各年度の自己資本利益利益率に満足するであろうし、そのような関係ではないことを示しているだろう、という事は明らかだろう、と判断しています。

 ⑤についても、「独立投資家の視点」を用いています。「給与支払の基準の下で支払いが合理的かは基準が合理的なものかということに依拠しているものだ。……合理的な株主資本利益率を保たない基準は、おそらく不合理であろう[9]。」と述べ、基準は合理的と判断しました。

 以上、すべての要素を検討した結果として、破棄差し戻しと判決を出しています。

本判決は、金額基準における多要素基準で検討する要素を5つに整理していること、及び初めて「独立投資家の視点」を用いたことで知られています。

また、本判決は、初めて多要素基準の中で「利益の対立」を検討している。以前の記事で書いたように、「利益の対立」とは「取引の公正さ」と同義と思われます。そして「取引の公正さ」は閉鎖会社には認められないという前提の下で、「独立投資家の視点」が用いられています。

 「独立投資家の視点」とは、取引が公正な場合の支払いは合理的と考えられるという前提の下で、実際には取引は不公正であるが、取引が公正な場合に支払われる金額であるならば、その支払いは合理的であるという意味で用いられていると考えられます。

 本判決以降、判決内では「類似の企業における類似の立場の者へ一般的に支払われる金額」という要素は最も重要な要素であると言われなくなりました。「利益の対立」が、多要素基準による検討の中で重要視されていることの表われであると思われます。

 

 Exacto事件第7巡回区控訴裁判所判決

 Exacto Spring社が、CEOのHeitz(約55%の株式を保有)へ1993年度及び1994年度に支払った報酬の合理性が争われた事案です。なお、裁判長は、法と経済学の研究者であるRichard A. Posner判事です。

 本判決ではまず、租税裁判所が用いた多要素基準を、くどく、不完全で、不明瞭である、と批判しています[10]。より具体的には、要素の中には内容がほぼ同じものや立証方法が同じものが含まれており、その意味でくどい。次に、多要素基準を検討しても、例えば、全く役務の提供がない場合でも経費算入の否認ができないため、条文の趣旨に沿わず、その意味で不完全である。さらに、租税裁判所には給与又はその他の報酬の決定の経験などなく、また多要素基準による検討方法の具体的指針はないため、裁判所の恣意的な判断を招いてしまい[11]、その結果、裁判所の判断は予測不可能となり、会社は給与又はその他の報酬の決定に関し法的リスクを負わざるを得ない、という意味で不明瞭である。

 さらに、租税裁判所がただ単に両当事者の主張する額の約半額をもって合理的金額と決定したことについて、あぜんとしてしまう、と酷評しています[12]

 そして本判決では、多要素基準に代えて、より簡素、より条文の目的に合致する基準として、「独立投資家基準」を採用しました。これは、前掲Elliotts事件第9巡回区控訴裁判所判決の多要素基準の検討の際に用いられた「独立投資家の視点」を単独で用いる基準です。

この基準を用いて、本判決は、類似する他社の自己資本利益率は13%であるのに対し、原告の自己資本利益率は20%である為、合理的と判断しています。

 しかし、この判断の後、これは「仮定」であって「反論」しうると付け加えてもいます。この理由として、本判決は、経費は金額が合理的であるだけでなく本物の経費でなければならないことを挙げており、更にこれは「要素」であると述べています[13]。最後に、本件においては、反論はないので破棄差し戻しと判決を出しました。

 本判決は、独立投資家基準を採用すると述べつつも、実質的には多要素基準を用いていると考えられます。しかし、本判決には、多要素基準を用いる従来の判決とは異なる点が2つあります。

 1つ目は、従来とは異なりできる限り客観的に判断することを試みている点です。独立投資家基準の限界を認識してはいますが、まず検討するものは自己資本利益率のみとすることで、判断に主観が介入しづらいようにしています。これに関連して、Haffner’s Service Station事件第1巡回区控訴裁判所判決は、前掲Exacto事件第7巡回区控訴裁判所判決は、給与又はその他の報酬の合理的支給額の判断は「道徳的関心でも公正の問題でもないことを思い出させる助言」であると述べています[14]

 2つ目は、まず先に自己資本利益率を検討して「仮定」を設け、それに対する反論を検討するという流れを採ることで、どの程度の証拠で証拠提出責任を果たしたと言えるのかということ、証拠提出責任は納税者から内国歳入庁長官へと移転することを明示している点です[15]O.S.C. & Associates, Inc.,事件第9巡回区控訴裁判所判決の中で、Wiggins判事は、反対意見の中で、「私たちは、内国歳入庁長官よりむしろ納税者に最終的な説得責任を負わせていたため、どの程度の証拠が適法性の推定を覆し説得責任[16]を移転させるために必要か、はっきりと示してこなかった。……その結果、私たちは、適法性の推定を覆すに足る証拠の量の取り扱いよりむしろ納税者の説得責任を規律する証拠基準の優勢に着目して、事案を検討してきたのである。」と述べています[17]

 

5 Menard事件第7巡回区控訴裁判所判決

 Menard社が、CEOのMenard(議決権付株式のすべてと、議決権のない株式の56%を保有)に支払った報酬の合理性が争われた事案です。租税裁判所[18]は、独立投資家基準を用いて、目的基準の検討において、賞与が税引前当期純利益の5%であること、配当は支払われていないこと、Menardは単独株主である為不確定報酬で従業員の勤労意欲が増大することを期待する必要はない、という3つの事項に着目して、金額基準で合理的と判断された金額以上の部分は、偽装配当であると判断しました。

なお、本判決の裁判長は、前掲Exacto事件第7巡回区控訴裁判所判決と同じくRichard A. Posner判事です。

 まず、本判決は、前掲Exacto事件第7巡回区控訴裁判所判決同様、多要素基準を批判し、独立投資家基準を用いると述べています。また、独立投資家基準は「仮定」であって「反論」されるか検討する必要があるとも述べています[19]

 本判決は、「仮定」の有無について、類似他社2社より高い原告の自己資本利益率が18.8%であり、これに対して株主が納得していないこと又は原告の成功は他の要素によるものであること、を主張する証拠はないと認定しています。

 次に、租税裁判所の判決が述べている「反論」の内容について、検討をしています。

 まず、賞与が税引前当期純利益の5%であることについて、配当は一般的に割合ではなく金額で指定されるものであるから、この賞与は配当に類似していないと反駁しています。この反駁において、判決は、財務や経営に関する著作物を5点引用しています[20]。これは従来の判決では見られなかったことです。

次に、年末の支払であることは偽装配当を示さないこと及び配当の支払は通常毎季支払であると論難しています[21]

 また、単独株主であるため報酬支払の方針を決めた取締役会はCEOであるMenardの支配下にあったと租税裁判所は述べているが、そのロジックでは、一人会社はCEOに報酬を支払うことはできないという事になる!と痛烈に批判しています[22]。この様な批判は、従来の判決では見られなかった批判です。

 さらに、租税裁判所が行った、外部比較による金額決定について、参考にした2社と原告では膨大な差異があるのに租税裁判所は考慮していなかったこと、金額の算定について、専断的であり馬鹿げている、と酷評しています[23]

 本判決は、従来の判決には見られないほど、財務や経営に関する著作物を何点も引用しています。さらに、例えば、年末の支払であることなど、従来ならば納税者にとって不利にとらえられる要素について、これらの著作を引用したうえで反論しました。これは、できる限り論理的かつ客観的に判断しようとしたためと考えられます。

 

6 現在の判決の傾向

 独立投資家基準を用いた判決としては、他には、Mulcahy, Pauritsch, Salvador事件租税裁判所メモランダム判決[24]Mulcahy, Pauritsch, Salvador事件第7巡回区控訴裁判所判決[25]があり、後者の判決の裁判長は、前掲Exacto事件第7巡回区控訴裁判所判決及び前掲Menard事件第7巡回区控訴裁判所判決と同じく、Richard A. Posner判事です。

以上取り上げた主要判決以外の現在の判決の傾向を見るに、できる限り客観的に判断し、更に裁判所の裁量を狭くしようと試みているようです。例えば、従来ならば検討もせず取引は不公正と判断されてきたこと、例えば親子関係にあることについて、Allen L. Davis租税裁判所メモランダム判決は、不公正とは限らないと述べて、事実を検討して、公正と判断しています[26]。更に、金額基準の判断において、多要素基準による検討をする多くの判決は、要素の1つとして独立投資家の視点を用いて[27]、その結論を重要視する傾向にあります。

 

 

[1] Mayson Mfg. Co. v. Commissioner of Internal Revenue, 178 F.2d 115, 119 (6th, Cir. 1949).

[2] Charles McCandless Tile Service v. United States, 422 Ct.Cl. 1336, 1339(1970).

[3] See, e.g., International Capital Holding Corp. v. Commissioner of Internal Revenue, 83 T.C.M. 1586 (2002).

[4] Nor-Cal Adjusters v. Commissioner of Internal Revenue, 30 T.C.M. 837, 843 (1971).

[5] Edward A. Zelinsky, Reasonable Compensation: A study in doctrinal obsolescence, 58th N.Y.U. Ann. Inst. Fed. Tax’n §13.03 (2000).

[6] Elliotts, Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 716 F.2d 1241, 1244 (9th Cir. 1983)..

[7] Id., at 1246.

[8] Id., at 1247.

[9] Id., at 1248.

[10] Exacto Spring Corp. v. Commissioner of Internal Revenue, 196 F.3d 833, 853(7th Cir. 1999)..

[11]給与又はその他の報酬としての支払の経費算入の可否の判断において、従来裁判所の裁量は非常に広く、裁判所は一種の専断者として判断を行ってきました(長穣「アメリカ税務訴訟における立証の具体的研究(5)」税法学107号6-7頁(1959年))。

[12] Exacto Spring Corp., 196 F.3d at 837.

[13] Id., at 851.

[14] Haffner’s Service Station v. C.I.R., 326 F.3d 1, 4(2003)

[15]なお、1998年の内国歳入庁改革法(the Internal Revenue Service Restricting and Reform Act of 1998)において、内国歳入法典7491条が設けられました。従来税務訴訟において納税者が立証責任を負ってきたが(内国歳入法典142(a))が、一定の要件を満たす場合に内国歳入庁側が説明責任を負うというものです。(三木義一編『世界の税金裁判』229頁(清文社,2001年)を参照)。給与又はその他の報酬の要経費算入の可否が争われた判決には、検討に入る前に、まず、原則として納税者が説明責任を負うと述べているものが散見されています。

[16]米国法の手続法上では、説得責任は納税者の側にあり移転せず、移転するのは証拠提出責任であるため、この記述は、証拠提出責任、の誤りではないかと思われます。

[17] O.S.C. & Associates, Inc., v. C.I.R., 187 F.3d 1116, 1128, n.11(1999)(Wiggins, j., dissenting).

[18] Menard, Inc., v. C.I.R., T.C.Memo2004-207(2004).

[19] Menard Inc. v. Commissioner of Internal Revenue, 560 F.3d 620, 622-623(7th Cir. 2009).

[20] Id., at 624.

[21] Id., at 624-625.

[22] Id., at 625.

[23] Id., at 626.

[24] Mulcahy, Pauritsch, Salvador & Co., Ltd. v. C.I.R., T.C.Memo2011-74(2011).

[25] Mulcahy, Pauritsch, Salvador & Co. Ltd. v. C.I.R., 680 F.3d 867(7th Cir 2012). 本判決を紹介しているものとして、林幸一「米国における役員給与の合理性判断基準」大阪経大論集64巻1号139頁(2013年)があります。

[26] Allen L. Davis, Et Al., v. C.I.R., T.C.Memo2011-286, 306(2011).

[27] See, e.g., Rapco, Inc., v. C.I.R., 85 F.3d 950, 954(1996).