読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第4版]94 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」(要旨)

最高裁平成16年7月20日判決・判例時報1873号123頁)

 

〈事案の概要〉

 訴外A社(同族会社)の代表取締役であったXは,証券会社を介して訴外B社の株式をA社に売却し,その代金の清算日にXは銀行から借り入れをし,無期限及び無利息でA社に貸付け,A社は,同日,証券会社に対して株式の代金及び証券会社への手数料を支払い,Xは銀行からの借入金及び利息を返済しました。結果として,XのA社に対する貸付金が無期限及び無利息で残りました。

 Xの顧問弁護士等の税務担当者は,税務当局は個人から法人への無利息貸付けには所得税を課さないという見解を採っていると解していたため,これについては0円で申告をしていました。しかし,税務署長Yは,所得税法157条を適用し,この貸付けの利息相当分に係る雑所得が発生していると認定して更正処分を行いました。

 この事案では,所得税法157条の適用があるかなど争点がいくつかありますが,租税判例百選にて掲載されている争点は,「Xの顧問弁護士等の税務担当者は,税務当局は個人から法人への無利息貸付けには所得税を課さないという見解を採っていると解していたため,これについては0円で申告をしていた」ということにつき国税通則法65条4項の「正当な理由」に該当するかというものです。

 

〈納税者の主張〉

「税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴って更正を受けるに至った場合には,国税通則法65条4項の『正当な理由』が認められるものというべきである。

 そして,原告が本件各年分の確定申告および修正申告において本件認定利息を雑所得に計上しなかったのは,右申告当時において個人から法人への無利息貸付けについて課税されることはあり得ないとする課税庁職員らの一致した見解が公表されていたことに基づくものであるが,被告桐生税務署長は,かかる通説的見解を突如改変して更正処分を行ったのである。

 したがって,原告が本件認定利息をその所得税の税額の計算の基礎としなかったことについて前記『正当な理由』が存在していたことは明らかである」。

 

〈税務署長の主張〉

「同族会社に対しその代表者が無利息で貸付けをする場合において,当該代表者には本件規定は適用されないという公的見解が表示された事実等はない」。

 

〈第一審判決(東京地裁平成9年4月25日判決・判例時報1625号23頁)〉

請求棄却

国税通則法65条4項の「正当な理由があるとは,納税者のした申告が真にやむを得ない理由によるものであり,かかる納税者に過少申告加算税を課すことが不当もしくは酷になる場合を指すものであって,納税者が税法を誤解したことに基づく場合は幻想としてこれに当たらないと解される」。原告が,右申告当時において個人から法人への無利息貸付けについて課税されることはあり得ないとする課税庁職員らの一致した見解が公表されていたと引用する各文献は,「いずれも税務官庁による公的見解の表示とは同視することのできない私的な著作物である上,個人から法人への無利息貸付けには常に本件規定の適用がないと解される記載はないものと認められるから,仮に右文献内の記述によって原告が本件消費貸借に本件規定の適用がないものと誤解したとしても,それをもって右にいう正当な理由があると認めることはできない」。

 

控訴審判決(東京高裁平成11年5月31日判決・税務訴訟資料243号127頁)〉

請求認容

原告が提出する各文献は,「個人から法人に対する無利息貸付けについては課税されないとの見解が記載されている解説書であるが,いずれも編者及び推薦者又は監修者として東京国税局勤務者が官職名を付して表示されており,財団法人大蔵財務協会が発行したものである」。「本件解説書は,正確にいえば私的な著作物であり,個人から法人に対する無利息貸付けについて本件規定の適用が一切ないことを保証する趣旨までは記載されていないが,各巻頭の『推薦のことば』『監修のことば』等において,東京国税局税務相談室その他の税務当局に寄せられた相談事例及び職務の執行の際に生じた疑義について解答と解説を示す形式がとられていることが記載されており,税務当局の業務ないし編者等の税務当局勤務者の勤務と密接な関連性を窺わせるものである。したがって,税務関係者がその編者等や発行者から判断して,その記載内容が税務当局の見解を反映させたものと認識し,すなわち税務当局が個人から法人に対する無利息貸付けについては課税しないとの見解であると解することは無理からぬところである。」また,Xの「税務関係のスタッフも本件消費貸借をするに際し税務当局が個人から法人に対する無利息貸付けについては課税しないとの見解と解していたことが認められ,これを単なる法解釈についての不知,誤解ということはできない」。

 

最高裁判決(最高裁平成16年7月20日判決・判例時報1873号123頁)〉

請求(上告)認容

「本件各解説書は,その体裁等からからすれば,税務に携わる者においてその記述に税務当局の見解が反映されていると受け取られても仕方がない面がある。しかしながら,その内容は,代表者個人から会社に対する運転資金の無利息貸付け一般について別段の定めのあるものを除きという留保を付した上で,又は業績悪化のため資金繰りに窮した会社の為に代表者個人が運転資金500万円を無利息で貸し付けたという雪嶺について,いずれも,代表者個人に所得税法36条1項にいう収入すべき金額がない旨解説するものであって,代表者の経営責任の観点から当該無利息貸付けに社会的,経済的に相当な理由があることを前提とする記述であるということができるから,不合理,不自然な経済的活動として本件規定の適用が肯定される本件貸付けとは事案を異にするというべきである。そして,当時の裁判例等に照らせば,被上告人の顧問弁護士等の税務担当者においても,本件貸付けに本件規定が適用される可能性があることを疑ってしかるべきであったということができる。」

したがって,本件の場合国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があったと認めることはできない。