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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第4版]14 租税法の解釈―レーシングカー事件(要旨)

〈事案の概要〉

競走用自動車の製造販売業を営むXは,FJ1600と呼ばれるいわゆるフォーミュラータイプに属する競走用自動車を製造し移送したところ,税務署長Yはこれは物品税法上の「小型普通乗用四輪自動車」に該当するとして物品税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をしました。Xは,この処分取消しを求めて出訴しています。

 

 

〈納税者の主張〉

「本件各自動車は,サーキットレース場内を一定の距離に達するまで如何に速く走るかを目的とするものであり,一般公道を走ることを目的とせず,またそのための装備,機能もない。

課税物品表にいう『普通』乗用自動車とは,車の用途,機能に着目した用語である。すなわち,通常人が利用し,乗用自動車として期待する性状,用途,機能等を備えた自動車を意味する。したがって,本件各自動車は,『普通』とも『乗用』ともいうことができず,小型普通乗用四輪自動車に該当しない。」

 

〈税務署長の主張〉

「本件各自動車は,競争することを目的とするが,これは,運転者を乗せてある地点から他の地点に異動することを目的とするものといえる。したがって,これらは乗用装置を有し,主として人を運ぶ目的を有するので,乗用自動車であり,本件各自動車は小型普通乗用自動車に該当する。」

 

 

〈第一審判決(京都地裁平成5年1月29日判決・判例タイムズ835号191頁〉

請求認容

 物品税は掲名主義を採っており,「課税物品表に掲名されている物品への該当性は,社会通念に照らし,他の法令による名称及び取引上の呼称等にかかわらず,当該物品の性状,機能及び用途等を総合して定めるべきである。」

 旧物品税法において課税物品表に小型普通乗用自動車等が掲名された「立法経過,旧物品税法の性質,並びに租税法律主義の見地と社会通念に照らすと,旧物品税法に掲名された小型普通乗用自動車は,被告主張のように乗用自動車と同義ではなく,その『普通』は,特殊な自動車でないとの意味をもつというべきである。とすれば,同法九条の特殊な性状,構造若しくは機能とは,普通乗用自動車に該当するがなおその中で特殊な性状等を有するものというと考えるほかない。

 そして,普通乗用自動車とは,一般公道を普通に通行しうる機能を有する,主として人の乗用に供する自動車であると解すべきである。」

本件各自動車の性状,機能,装備及び用途等を総合すれば,「本件各自動車は,運転者を乗せて走行する自動車であって,この点で乗用自動車に当る。しかし,その性状,機能及び用途等に照らして,サーキットレース場における自動車レース用にのみ供される,特殊な用途の競走用の自動車であって,一般公道を通行することができないものと認められる。

したがって,本件各自動車は,その性状,機能及び用途等からみて専らサーキットレース場において競走用のマシン(自動車)として使用されるものであるから,小型普通乗用自動車に該当するとは認められない。」

 

控訴審判決(大阪高裁平成6年3月30日判決・税務訴訟資料200号1330頁)〉

控訴認容

「物品税法の課税物品表における『普通乗用自動車』との用語には,自動車について二つの限定が付されている。一つは『乗用』であり,もう一つは『普通』である。第一の『乗用』自動車とは,通常,『貨物』自動車に対比されることからも明らかなように,人が乗車し,主として人が移動するための用途に使用することを主目的とするものを意味し,貨物の運送に使用する場合などの他の用途を主目的とするものは除外することを意味するものと理解することができる。次に,第二の『普通』とは,『乗用自動車』を更に限定する定義であるが,その意味は自明なものではないので,前記法律等の制定及び改正の経緯からその意味を探ってみる必要があるが,『普通乗用自動車』の用語は当初から存し,一貫して使用されてきているところである。そのうち,最も簡明な支那事変特別税法の規定によれば,乗用車のうち『普通乗用自動車』のみを課税対象とするというのであり,『普通』という定義規定を設けることにより,『特殊な』乗用自動車以外の乗用自動車だけを課税対象とする趣旨にあったものと解される。」

 本件各自動車の性状,機能,用途等は原判決認定のとおりであり,これによれば,本件各自動車はフォーミュラーカーであり,専ら自動車レースに使用されるのを目的としているという事ができる。

「しかしながら,自動車レースは,人の乗用を前提にし,走行の速さなどの運転テクニックを競う競技であり,自動車における人の乗用技術を極限にまで高めて自動車を走行させるものにほかならない。」「また,本件各自動車は一般道路における走行が法令上許容されていないし,行動の走行を許容されている乗用自動車とは異なる仕様となっているが,これも,自動車を『乗用』に使用する際における走行高速度などの運転テクニックを極限に高めて走行させるために製造された結果にすぎない。」

「そうすると,本件各自動車は,人が乗車することを目的とするものであって,乗用という用途以外の特殊な用途に供されるものではないと解すべきであり,物品税法の課税物品表第二種の七にいう『普通乗用自動車』に該当するものというべきである。」

 

 

最高裁判決(最高裁平成9年11月11日判決・判例時報1624号71頁)〉

上告棄却

①多数意見

物品税法の課税物品表の「普通乗用自動車」とは,「特殊の用途に供するものではない乗用自動車をいい,ある自動車が普通乗用自動車に該当するか否かは,当該自動車の性状,機能,使用目的等を総合して判定すべきものと解するのが相当である。原審の適法に確定した事実関係によれば,本件各自動車は」「専ら自動車競技場における自動車競走のためにのみ使用されるものである」。「しかし,本件各自動車も,人の移動という乗用目的のために使用されるものであることに変わりはなく,自動車競走は,この乗用技術を競うものにすぎない。また,本件各自動車の構造,装置が道路を走行することができないものとなっているのも,右のような自動車競走の目的に適合させるべく設計,製造されたことの結果にすぎないのであって,本件各自動車は,乗用とは質的に異なる目的の為に使用するための特殊の構造,装置を有するものではない。したがって,本件各自動車は,その性状,機能,使用目的等を総合すれば,乗用以外の特殊の用途に供するものではないというべきであり,普通乗用自動車に該当するものと解すべきである。」

 

②反対意見(尾崎行信裁判官)

「本件各自動車が課税対象たる『小型普通乗用四輪自動車』に該当するか否かは,人の除用を伴うか否かの身によって判断されるべきではなく,自動車としての性状,機能,使用目的等の諸要素及び陸運事務所の登録の可否,種別を総合勘案して判断すべきである。」

 本件各自動車は,「そもそも道路を走行することが全く予定されておらず,そのために必要な構造,装置の重要な一部を欠くものである。このように,本件各自動車は,人を地点間で移動させて社会的,経済的効用を達成する目的を有しておらず,これを主たる目的とする『普通』の乗用自動車とは著しく異なる特異の性状,機能を有しており,そのため,道路運送車両法特種用途自動車としても登録できないものである。したがって,これらの性状,機能,使用目的等を総合すれば,本件各自動車は,自動車競走上における自動車競走という特殊の用途に供するものとして,『普通』乗用自動車には該当しないと解すべきである。

 ちなみに,昭和四八年法律第二二号による物品税法の一部改正による同法別表課税物品表第二種七号2に小型普通乗用四輪自動車に上絵手小型キャンピングカーが課税物品として新たに掲げられたところ,同法が小型キャンピングカーを小型普通乗用四輪自動車とは別個の課税物品として掲げたのは,その性状,機能,使用目的等が普通乗用自動車の範ちゅうから外れていると認めたことに他ならない。そうだとすると,人の移動という乗用目的が本件各自動車と比べてはるかに明りょうな小型キャンピングカーが普通乗用自動車に当たらない以上,本件各自動車がこれに該当しないことは,むしろ当然というべきであろう。

 また,前記物品税法基本通達では,陸運事務所の登録基準による特種自動車として登録されるものは普通乗用自動車等として取り扱わず課税対象としていないのに,およそ登録基準に合致せず登録不能な本件各自動車を普通乗用自動車として課税の対象とすることは,均衡を失するものとして許されるべきではない。

 さらに,税務当局は,行政解釈により遊園地専用の乗用自動車及びゴーカートを『普通乗用』自動車に該当しないとして取り扱っているのであって,本件各自動車をこれに当たるとするのは,あまりにも恣意的にすぎるというべきである。

 そもそも,物品税法は,別表課税物品表に掲げられた物品に限って課税物件とする仕組みを採用しているところ,物品税の課税対象とされる乗用自動車の範囲については,同法は,これを単に普通乗用自動車という文言で規定しているにすぎず,本件各自動車のように専ら自動車競走上における自動車競走の目的にのみ使用され,そのための構造,装置を有している自動車が特種の用途に供するものではない普通乗用自動車に該当するとの解釈が,社会通念に照らして少なくとも明確であるとは認められない。そうであるとすれば,課税要件明確主義の観点からも,本件各自動車が普通乗用自動車に該当するものと解することは許されないものというべきである。」