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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第5版]102(租税判例百選[第4版]16)他人の時効取得を認める判決と後発的事由による更正の請求(要旨)

(大阪高裁平成14年7月25日判決・訟務月報49巻5号1617頁)

 

〈事案の概要〉

 訴外Aは,所有していた土地1及び土地2の各3分の1の共有持分権をX1,X2,X3に相続・遺贈させる旨の遺言を公正証書で作成して亡くなりました。Aの死亡後,Xらはこの遺言に基づき登記をして相続税の申告をしました。一方で,訴外B1及びB2が,土地1についてはB1が贈与を受けており,土地2についてはB2が贈与を受けているとして,Xらを相手に訴訟を提起し,その予備的請求として時効取得を主張していました。この別件訴訟において,Bらが土地1及び土地2を時効取得していると判決が出て,確定してしまいましたので,Xらは,Bらは土地1及び土地2を占有していた時から所有権を取得していたのであるから相続財産から除外すべきであるとして更正の請求をしましたが,税務署長Yは,更正すべき理由はないと通知をしました。そこで,Xらは,この処分の取り消しを求めて出訴しました。

 

 

〈納税者の主張〉

「被告は,国税通則法23条2項1号にいう『判決』について,課税時期において,明らかになっていないが,課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる『既に存在していた』事実を確認・確定させる『判決』を意味すると主張し」,XらとBらの別件判決はこれに該当しない,と主張する。

「しかし,被告の上記主張は,事項の遡及効が租税法上認められないとの前提に立つものであるにすぎず,次に述べるように租税法上も事項の遡及効が認められるのである」。

「課税が租税法に基づいて行われることは当然であるが,租税法は実体法秩序を前提として成立するものであり,実体的権利関係を無視して独り歩きする租税法は考えられない。本件のような場合に課税上民法144条に規定する時効の遡及効を否定するのであれば,明確な規定が必要であるところ,そのような規定がないばかりか,的確な判例もない。このような場合は,疑わしくは課税せずとの法理が適用されるべきである。

実体法上,遡って権利を有しなかったことになる時効取得の相手方(権利喪失者)に対する課税は,実体的に有しない権利に対する課税となるから,本件処分は,課税は実質に即して行わなければならないという実質課税の原則にも違反する。」

 

〈税務署長の主張〉

国税通則法23条2項1号にいう『判決』とは,『申告にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実を訴えの対象とする民事事件の判決』をいう。そして,これに該当するのは,例えば,不動産の売買に基づき譲渡所得の申告をしたところ,後日,売買の無効確認訴訟を提起され,判決や和解によって売買がなかったことが確定した場合等であると考えられ,課税時期において,明らかになっていないが,課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実を異なる『既に存在していた』事実を確認・確定させる『判決』を意味するものと解するべきである。

 ところで,相続開始後に取得時効が完成し,援用された場合であっても,次の事実を考慮すると,相続税法の解釈上,遡って相続財産でなくなるというわけではない。

 本件における問題は,本件各土地が,相続税法2条1項の『相続または遺贈により取得した財産』に該当するかという相続税法上の課税要件の解釈問題である。したがって,私法上の時効の遡及効を租税法の解釈に直ちに持ち込むことはできない。

 時効取得に伴い権利の得喪の場合の課税については,租税法上,その効果は遡及しないものと解されている。

 

 

〈第一審判決(神戸地裁平成14年2月21日判決・訟務月報49巻5号1623頁)〉

請求棄却

 国税通則法23条の趣旨は「申告納税時には予想し得なかった事由が後発的に発生し,これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じ税額の減額をすべき場合にも更正の請求を認めないとすると,帰責事由のない納税者に過酷な結果が生じる場合等があると考えられることから,例外的に,一定の場合に更正の請求を認めることによって,保護されるべき納税者の救済の途を拡充したものである。」このような趣旨からすれば,同条2項1号の「判決」とは,「申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実(例えば契約の成否,相続による財産取得の有無,特定の債権債務を発生させる行政処分の効力の有無等)を訴えの対象とする民事事件の判決をいうものと解するのが相当である。

 これに該当するのは,不動産の売買があったことに基づき譲渡所得の申告をしたところ,後日になって,売買の無効確認訴訟を提起され,判決によって売買がなかったことが確定した場合のように,申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係について私人間に紛争を生じ,判決によってこれと異なる事実が明らかにされた場合などであって,申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより,その申告の課税標準等の計算の基礎となった事実に関する訴えに係る判決によって,事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した時であると解することができる。」

 これを前提として,本件における別件訴訟(訴外Aの公正証書遺言の無効が争われBらが土地1及び土地2を時効取得しているとの判決が出た訴訟)の判決が国税通則法23条2項1号の「判決」に該当するかを検討する。

 民法上,「時効による所有権取得の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当である」ところ,「占有者に時効取得されたことにより所有権を喪失する権利者の所有権喪失時期についてみると,上記の占有者の所有権取得の効果が生じる時期と整合的に考えるべきであることから,やはり占有者により時効が援用されたときと解するのが相当である。」

 一方で,租税法上は、時効取得による権利の得喪の場合の課税についての取り扱いは以下のとおりである。

「まず,時効により不動産を取得した者に対する課税上の取扱いについていうと,課税実務上及び裁判例上,時効の援用の時に,一時所得に係る収入金額が発生したものと解されている。」

「次に,時効により権利を喪失した者に対する課税上の取扱いについてみると,不動産を占有者に時効取得されたのが法人である場合は,当該法人は時効取得された不動産を損金として計上することができるが(法人税法22条3項3号),課税実務上は,時効の遡及効にかかわらず,時効が援用された時点を基準に時効取得により生じた損失を損金に算入し,その損失の額はその時点における簿価とすることとされている。

 以上のように,課税実務上及び裁判例上では,民法の事項の遡及効にかかわらず,時効の援用時に所得が発生し,あるいは損失が生じるものと解されており,本件のような場合においても整合的に解するべきである。そうでなければ,二重課税又は二重に控除を認めるなどの不都合な結果が生じるおそれがあるからである。」

 Xらは,「時効による権利の取得者に対する課税の時期を援用時とすることと,権利の取得時期を起算日に遡らせることとは,権利の取得者に対する課税方法の問題にすぎないが,権利の喪失者に対する課税は,実体法上起算日に遡って権利を有しなくなる者への課税であり,実質課税の原則に違反し,単なる課税方法の問題ではない旨主張する。」

 しかし,Xらの上記主張は,「権利の取得者の側から考察すると矛盾している。例えば,土地の占有者(以下「a」という。)が時効完成前に死亡したが,その後も占有を継続したaの相続人(以下「b」という。)が時効完成後に時効の効力が占有開始時まで遡及することから,aは所有権を占有開始時に取得したこととなり,aの相続開始時点における相続財産を構成するため,bに相続税が課税され,それと同時にbには時効の援用の効果として,一時所得が課税されるということとなり,相続によって取得した土地に対して一時所得が課税されるという理論の矛盾をも招来し,二重課税ともいうべき不都合な結果となる。」

 それゆえ,Xらの上記主張は採用できない。

 実質的に見てXらが保護に値するかを見るに,本件では時効の完成も援用も本件相続開始後であることなどからすれば,Xらは「著しい不注意によって時効中断の措置を執らなかったのであるから,相続税の更正の請求が認められない(確定申告額の減額が認められない)としても,」それはXらに帰責事由があったことによるものであり国税通則法23条2項の趣旨に照らしてやむを得ないものであると言うほかない。

 Xらが別件判決が国税通則法23条2項1号にいう「判決」に該当すると主張する根拠は,「民法144条に規定する時効の遡及効により,時効取得者は占有開始時に遡って本件各土地の所有権を取得したことになるから,本件各土地についての」遺贈又は相続が無効になるという点に尽きる。

「しかし,本件での問題は,本件各土地が,相続税法2条1項の『相続又は遺贈により取得した財産』に該当するか否かであって,私法の解釈そのものが問題となっているわけではない。課税は,私法ではなく税法に基づき行われるのであって,税法に基づき課税するに当たって,私法上の法律関係が前提とされることが多いのは,税法がその私法上の法律関係を課税要件の中に読み込んでいると解される場合が多いことによるもので,税法の解釈を離れて私法が適用されるものではないのである。」

したがって,Xらの上記主張は採用することができない。」

 以上のとおり,別件判決は,時効の完成及び援用という本件相続開始後に発生した新たな事実,すなわち本件相続後の時間の経過という事実及び実体法上の意思表示でもある時効援用の事実を判断の基礎としたものであり,本件相続開始時に既に存在していた事実のみによって課税標準等を変更するものではなく,「既に存在していた」事実を明らかにしたものではない。

 したがって,別件判決は,国税通則法23条2項1号にいう「判決」には該当しない。

 

 

控訴審判決(大阪高裁平成14年7月25日判決・訟務月報49巻5号1617頁)〉

控訴棄却

「時効による所有権取得の効力は,時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく,時効により利益を受ける者が時効を援用することによって確定的に生ずるものであり,逆に,占有者に時効が援用されたときに始めて確定的に所有権を失うものである。そうすると,民法144条により時効の効力は起算日に遡るとされているが,時効により所有権を取得する者は,時効を援用するまではその物に対する権利を取得しておらず,占有者の時効取得により権利を失う者は,占有者が時効を援用するまではその物に対する権利を有していたということができる。したがって,本件においては,本件相続開始(A死亡)時においては,本件各土地について,Bらによる時効の援用がなかったことはもちろん,時効も完成していなかったのであるから,その時点では,X人らが本件各土地にいう所有権を有していたものである。

 「国税通則法23条2項1号にいう『その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき』とは,例えば,不動産の売買があったことに基づき譲渡所得の申告をしたが,後日,売買の効力を争う訴訟が提起され,判決によって売買がなかったことが確定した場合のように,税務申告の前提とした事実関係が後日異なるものであることが判決により確定した場合をいうと解されるところ,」本件においては,本件相続開始時にはXらは本件各土地につき所有権を有していたのであり,その点で食い違いはなく,別件判決は国税通則法23条2項1号にいう「判決」には該当しないと解される。

「課税実務上,時効により権利を取得した者に対する課税上の取扱いにつき,時効の援用の時に一時所得に係る収入金額が発生したものとし,時効により権利を喪失した者については,それが法人である場合は,時効が援用された時点を基準に時効取得により生じた損失を損金算入する扱いがされているが,正当な扱いとして是認することができる。」

 Xらは,「時効の効力が起算日まで遡る以上,租税法の解釈としても同様に解すべきであり,遡及効という法的効果を無視することは許されない旨を主張する。しかし,時効制度は,その期間継続した事実関係をそのまま保護するために私法上その効力を起算日まで遡及させたものであり,他方,租税法においては,所得,取得等の概念について経済活動の観点からの検討も必要であって,これを同様に解さなければならない必然性があるものとはいえない。」