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租税判例百選[第5版]16(租税判例百選[第4版]15)私法上と同一の概念の解釈―匿名組合契約の意義

最高裁昭和36年10月27日判決・最高裁民事判例集15巻9号2357頁)

 

 

〈事案の概要〉

 訴外A社は,事業資金を,投資あるいは出資という言葉を用いて一般大衆から集めていました。後にA社は破産しXらが破産管財人に選任され,その破産手続中に,税務署長Yは,この事業資金の取得にかかる契約に基づきA社が資金提供者に支払った金員は旧所得税法42条3項に規定する匿名組合契約等に基づく利益の分配金に該当するとして,Xらに対して,当該金員に対する源泉所得税及び源泉所得加算税を徴収する旨の決定をしました。この処分に対し,Xらは,A社と資金提供者の契約は匿名組合契約等に該当しないとして,処分取消しを求めて出訴しました。

 

 

〈納税者の主張〉

A社とその資金提供者との間の契約は,金銭消費貸借契約である。

所得税法及び同法施行規則の匿名組合契約とは,『営業車が十人以上の匿名組合委員と匿名組合契約を締結している場合の当該組合契約』(施行規則第一条)をいうのであって十人以上の匿名組合員を擁することを除くと,他の契約要件は商法上の匿名組合契約そのものに外ならない。ところで商法の匿名組合契約は『当事者の一方が相手方の営業のために出資をなし,その営業より生ずる利益を分配することを約するに因りてその効力を生ずる』(商法第五百三五条)契約であって,匿名組合員は一面営業者に出資する義務を負い,多面営業者の営業上生じた利益の分配を請求する権利(同法五百三八条)と営業者の業務執行を監督する権利(同法第五四二条第一五三条)を有するものである。」A社と資金提供者との間の契約はこれに当てはまらない。

 また,A社と資金提供者(貸主)とは,両者とも,匿名組合契約或いはこれに準ずる契約を締結する効果意思を有しておらず,貸主は金員を貸し付けて約定の利息の支払いを受ける意思を有し,一方A社は金員を借り受けて利息を支払う意思を有して,契約を締結したものである。

 

 

〈税務署長の主張〉

「契約の解釈にあたってはその当事者が当該契約に際してした表示行為を中心としてその内容を確定すべき」であるが,A社が行っていたように「不特定多数人に対してあらかじめ契約内容を表示して申込の誘引をなし,その出資者を募集している場合においては出資者は当然にこれと同一内容の契約内容を締結する効果意思をもって申込を行うことが明らかに予測され」,A社も「その表示に拘束されこれに反する内容を有する契約の為に承諾することはありえないから,かかる契約を解釈するについてはもっぱら申込の誘引に表示された文言を中心としてされなければならない。」そうすると,A社と出資者との契約は,A社から見れば「自己の営む各種事業資金に充てることを目的として出資者を募ってその投資金円を自己に帰属させこれによって事業を営み,その事業から得た収益を出資者に配当して分配するものであり,」出資者から見れば,A社の申し込みの誘引に表示された目的に対応して自己の金員をA社の事業の用に供するため投資し,これによって得た収益の分配として契約所定の割合による配当金を得ることを目的としていたもの,という契約であることは明らかである。

「右投資契約による利益の分配は所得税法第一条第二項第三号,同法施行規則第一条にいう『匿名組合契約及びこれに準ずる契約』に基く利益の分配に該る。」

 

 

〈第一審判決(東京地裁昭和33年7月3日判決・判例時報160号15頁)〉

請求認容

「右所得税法に規定する匿名組合契約等が,『営業車が十人以上の匿名組合員と匿名組合を締結している場合に当該匿名組合契約,その他当事者の一方が相手方の事業の為に出資をなし,相手方がその事業から生ずる利益を分配すべき』ことを約する契約で当該事業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約」(所得税法施行規則第一条)を意味することは所得税法第一条第二項第三号の規定から明らかである。しかして右施行規則第一条のその対価に規定する契約(匿名組合契約に準ずる契約)の内容はその前段の匿名組合契約(商法第五百三十五条)と比較すると事業者の経営する事業が商法上の営業に限らず,従って事業者が証人であることを要しないとしている以外は匿名組合契約と全く同一である。そして匿名組合契約においては出資を受けた営業者がその営業の成績によって浮動する利益を分配することが要件とされており,この点において確定率の金員を支払う消費貸借上の利息の支払いと区別されるものであるから確定率の金員を支払う旨の契約は右匿名組合契約に準ずる契約にも該当しないとも考えられるのであるが,しかし資金の需要が大であるのに,一般大衆から消費寄託や消費貸借によって資金を受入れることが禁止されている場合」「には営業者は資金を受入れること自体に大きな利益を享けるのであるから,出資者に営業者の利益の有無を問わず,一定率の金員を利益の配当として分配することを約する契約(無名契約)を締結することは経済上ありうるわけであって」「法律上不可能とはいえないといわなければならない。従って,単に予め確定した割合の金員を分配すると定めたということだけでは所得税法上の匿名組合契約等に該らないと解することはできない。そこで確定率の金員を分配することを約した契約が匿名組合契約等に該当するかどうかは結局いわゆる出資契約の当事者間において出資者が事業者の経営する事業にいわゆる隠れている営業者として参加する意思があるか,或いは単に出資者の提供した出資金を利用させ,その対価として利息を受ける意思を持つにすぎないかという点について契約全体の趣旨から判断しなければならない。契約の解釈にあたって当該契約に使用された文言にのみ拘泥するのは正当とはいえないのであって,このことは本件のいわゆる出資契約のように不特定多数の者との間に締結されたものである場合にも同様であって,このような場合においても表示された契約全体から当事者の意思を推測すべきことは勿論である。」

 認定事実によると,A社は事業の為に出資を求め,「出資者に利益の配当を約する契約の申し込みを誘引した観がないでもなく」「いわゆる出資者から申し込みがある際求めた申込書にも投資という文言が使われており,昭和二十七年ごろには契約の証として投資契約書という表題の契約書を作成しており,」「各営業所で作成していた清算書,出金伝票,支払予定表,振替伝票には支払配当金という文言が使われていた」。また,A社では「いわゆる出資金と引換に約束手形を交付していたこと,いわゆる出資契約が三箇月以上の比較的短期間であった」。各証拠及び証人尋問の結果を総合すると,A社が「契約申込の誘引に前記のような文言を使用したのは宣伝の為に語調がよく,有利であるという理由で使用した者であり,法律的に検討したものではなく,清算書等もそれを踏襲して支払配当金としたものであるが,破産直前の営業案内では投資,配当という文言を使うことはやめ,利息,元金と表示していること,いわゆる出資者にその事業を監督する権限を与えたり,営業決算書を提示したことはなく,その決算書類及び元帳等の塔簿にはいわゆる出資金は短期借入金又は借入金として,いわゆる配当金は支払利息として記載しており,いわゆる出資者と事業を共同にする意思はなく,単にその事業資金を組織的に借り入れる意思で契約をしたものであること,一方いわゆる出資者もそのほとんどが一箇月五分という高率のいわゆる配当金に専ら着目し,その法律的性質については考慮することなく,銀行に預けいれておくより利率が有利であると考えて契約を申込んだが」A社の事業内容については直接調査することはなく,せいぜい営業案内によって業種種目を知る程度で,それほど関心を持っておらず,「その事業を監督する組織も意思もなく」任意にA社の営業状態を視察に行った少数のいわゆる出資者がある程度で、その事業に参加する意思はなく,配当の支払を停止すると,いわゆる出資者の一部から破産の申立があり,破産が宣告されたが,その殆ど全部のいわゆる出資者はその出資債権を貸金債権として届出て確定していることが認められる。これらの事実をあわせ考えるとA社といわゆる出資者との契約が利益の配当を受けることを目的としていたとは断言できず,「右契約によるいわゆる配当が所得税法第四十二条第三項に規定する匿名組合契約等に基く利益の配当として源泉所得税の対象となるものとは解しがたい。」

 

 

控訴審判決(東京高裁昭和34年9月12日判決・行政事件裁判例集10巻12号2373頁)〉

控訴棄却

所得税法第一条第二項第三号,同法施行規則第一条の匿名組合契約等の意義について考えてみると,前段の匿名組合契約は,匿名組合員が十人以上存在する点を除いて,その要件は商法上の匿名組合契約と全く同じであり,また公団のこれに準ずる契約とは,出社の相手方が商法上の営業的活動をする商人(営業者)でなく,広く事業を行う者であるとしているほかは前段に規定されている匿名組合契約と全く同一であると解される。」

 A社と出資者との契約全体の趣旨から判断すると,出資者としては単に提供した金銭をA社に利用さえその対価としての利息を受領する意思を持っていたに過ぎない。「成文法の解釈については立法者の意思は参酌しなければならないが,それに拘束されることなく,法規を客観的に解釈しなければならないものはもちろんである。同一用語が用いられている場合にでも,法律によってはその意味が異なっている場合は絶無ではなく,たとえば、同じ占有という用語が民法においてと,民事訴訟法第五六六条第一項においては必ずしも同一ではないが,後者は単に所持と解するのが正しいので,占有と全く異る意味で用いられているわけではない。しかし,このようなことはあくまで例外である。商法上用いられているばかりではなく,一般社会である程度まで常識として用いられている匿名組合又はこれに準ずるという用語を,商法第五三五条以下で定めている要件と上記認定のように法律的に殆ど類似性が認められない会社と相当多数人との消費貸借について,これを用いているということは,法律解釈の良識としては考えられない。ことに,憲法第八四条で租税法律主義を宣明しているわが税法の解釈としては,とうてい許すことができない。」

 

 

〈上告理由〉

(長いため省略。興味のある方は,最高裁昭和36年10月27日判決・最高裁民事判例集15巻9号2360頁以下を読んで下さい。)

 

最高裁判決(最高裁昭和36年10月27日判決・最高裁民事判例集15巻9号2357頁)〉

上告棄却

Yの「論旨は,原判決は所得税法1条2項3号,同法施行規則1条の解釈を誤った違法がある旨を主張し,当事者の一方が相手方の営業または事業のために出資し,相手方がその利益を分配し,出資者の数が十人以上あれば,その場合の契約は,匿名組合契約に準ずる契約と解すべき旨を主張するのである。

しかし,法律が,匿名組合に準ずる契約としている以上,その契約は,商法上の匿名組合契約に類似するものがあることを要するものと解すべく,出資者が隠れた事業者として事業に参加しその利益の配当を受ける意思を有することを必要とするものと解するのが相当である。しかるに,原判決の認定するところによれば,本件の場合,かかる事実は認められず,かえって,出資者は金銭を会社に利用させ,その対価として襟気を享受する意思を持っていたに過ぎず,しかも,かかる事実は,単に出資者の内心の意図のみならず,原判決の引用する一審判決の認定するところによれば,会社は,出資金と引換に元本に利息を加えた金額の約束手形を交付し,契約期間は三箇月以上一年の短期間であり,会社の破産直前の営業案内でも投資は伊藤という文言を用いず,元金,利息と表示しており,会社は出資者に営業決算書等を提示したこともなく,会社の帳簿にも,出資金は短期借入金,または借入金と,配当金は支払利息と記入されていたというのであって,その他原判決の認定するところによっては,客観的にも匿名組合に類似する点はないのである。昭和28年法律173号による所得税法の改正の趣旨,目的が論旨のとおりであっても,いたずらに,法律の用語を拡張して解釈し,本件契約をもって同法にいう匿名組合契約に準ずる契約と解することはできない。」