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租税判例百選[第5版]28(租税判例百選[第4版]24)課税物件の帰属―親子歯科医師事件

東京高裁平成3年6月6日判決・訴訟月報38巻5号878頁)

 

〈事案の概要〉

 Xは歯科医でその住所地で開業していた。Xの子であるAは,歯科医師国家試験に合格したのち,Xが経営する歯科医院にて従事しており,A名義の個人事業の開業届が当時の所轄税務署に提出されていました。

 Xは,昭和57年分及び58年分の所得税について,歯科医院の総収入および総費用をAと折半して確定申告をしたところ,税務署長Yは,Aを独立の事業者として認めずXの事業専従者であるとして各年度分の所得税について更正処分及び加算税賦課決定処分を行ったので,Xは各処分の取消しを求めて出訴しました。

 

 

〈納税者の主張〉

〈税務署長の主張〉

(省略。)

 

〈第一審判決(千葉地裁平成2年10月31日判決・税務訴訟資料181号206頁)〉

請求棄却

実質所得者課税原則を定める所得税法一二条における「事業」とは,「自己の計算と危険において独立的に営まれる業務」(最高裁昭和五六年四月二四日判決,民集三五巻三号六七二頁)と解するべきところ,X夫婦とA夫婦及びその子は同一建物の一階と二階に住んでいること,建物の二階には,台所,ふろ場,トイレはあるが独立の出入り口はないこと,家事はXの妻とAの妻がお互いに助け合って行っていること,Aは結婚後Xと同居しているがその後上記のように一階と二階と住みわけるために借り入れをして建物を改築したこと,AがXの歯科医院に従事した当初はAはXから給与を受けていると申告されていたが,実際には,歯科医院の収入から上記の建物改築のための借り入れを返済した後の金額をXとAとで按分しておりその按分割合は明確に決められていなかったこと,その状態はAが開業届を提出した以降も同様であったことから,そもそもXとAは別個の世帯とは認められず,更に,Xは住所地において昭和三五年から現在において歯科医院を経営しており,Aが開業の際に必要とした医療器具購入等の費用の為の借り入れはX名義で行っており,その医療器具購入の売買契約もX名義で締結されており,上記の建物改築のための借入金の返済はX名義の口座から引き落としで行われていること,この借り入れに当たりX所有の土地建物(歯科医院の敷地および建物)に根抵当権が設定されていること,本件各処分以前には歯科医院の経理上XとAの収支が区分されていなかったことが認められる。Xは昭和三五年以来二十数年来歯科医院を経営してきたが,Aが昭和五六年から歯科医師として同医院の診療に従事することになり,それに応じて患者数が増加しA固有の患者が来院するようになったこと,同医院の収入が昭和五六年から飛躍的に増加していることが認められるが,本件で問題となっている昭和五六年から五八年にかけての歯科医院の実態は,Aの歯科医としての経験が新しく,かつ短いことから言っても,Xの長年の医師としての経験に対する信用力の下で経営されていたとみるのが相当であり,したがって,歯科医院の経営に支配的影響力を有しているのはXであると認定するのが相当である。

 なお,XとAの診療方法及び患者が別であり,医院の収入がいずれの診療による収入か区分することが可能であるとしても,収入が何人の所得に属するかは,何人の勤労に寄るかではなく,何人の収入に帰したかによって判断されるものである(最高裁昭和三七年三月一六日判決,税務訴訟資料三六号二二〇頁)から,Xが医院の経営主体である以上,医院の経営による収入はXに帰するものというべきである。

 

控訴審判決(東京高裁平成3年6月6日判決・訴訟月報38巻5号878頁)〉

控訴棄却

(上記第一審判決第一段落目は同じ。)

「親子が相互に協力して一個の事業を営んでいる場合における所得の帰属者が誰であるかは,その収入が何人の勤労によるものであるかではなく,何人の収入に帰したかで判断されるべき問題であって,ある事業による収入は,その経営主体であるものに帰したものと解すべきであり(最高裁昭和三七・三・一六第二小法廷判決,裁判集民事五九号三九三頁参照),従来父親が単独で経営していた事業に新たにその子が加わった場合においては,特段の事情がない限り,父親が経営主体で子は単なる従業員としてその支配のもとに入ったものと解するのが相当である。」

(上記第一審判決第二段落目は同じ。)