読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第4版]28 不法な所得―制限超過利息

最高裁昭和46年11月9日判決・民集25巻8号1120頁)

 

〈事案の概要〉

Xは,金融業・質屋業を営む自営業者である。利息制限法の制限税率を超える利息を受けていたが,昭和32年分の所得税の確定申告及び修正申告の際に,この制限超過利息を事業所得の収入金額に含めなかった。これに対し,税務署長Yは増額更正処分を行った。

 

 

〈納税者の主張〉

「未収利息については利息制限法の制限をこえる部分は違法のものとして請求できないから,」「課税の対象から除外すべきである。」

 

〈税務署長の主張〉

「『収入すべき金額』は課税の基因となった行為に伴い特定の個人による発生的に支配可能な経済的効果が生じたときに確定するものであって,しかもその基因となった行為が無効なものまたは取り消しうべきものである場合にも経済的効果が除去されない限り発生した経済的効果が所得計算の対象たることに変りがない。

これを本件についてみると係争年度において,原告が,その債務者との金銭消費貸借について約定利息の取り決めをしたときに前記『収入すべき金額』が確定したものというべ」きである。

 

〈第一審判決(福岡地裁昭和42年3月17日判決・行集18巻3号257頁)〉請求認容

所得税は所得自体に着眼しその所得原因の如何を問わずに課税されるものであるから,法令に禁止された行為に基づく収入であっても,それが所得を構成するかぎり課税の対象となることはいうまでもない。

したがって利息制限法所定の利率をこえる部分の約定利息,損害金であっても,それが収入金額として所得を構成する場合は課税の対象となることは明らかである。

ところで所得税は一年間の期間をもって計算される所得に対して課税されるものであり,所得がどの年度に帰属するかについて,旧所得税法一○条第一項は『…収入金額は…収入すべき金額による』と規定し必ずしも現実に収入のあった年度によらないこととしているのであるが,右にいう『収入すべき金額』とはいわゆる権利確定主義により『収入する権利の確定した金額をいう』ものと解される。しかしながら,所得税法上の権利確定主義は会計理論上の発生主義に対応すると考えられるものであるが,右会計理論が企業の経済活動を把握するための会計技術的側面から生じたものであるのに対し,税法上の権利確定主義は,右理論に対応しながらも,税法上いかなる時点で収入経費の発生を確実なものとして認識しうるかを主として法律的側面からとらえようとしたものと解すべきである。しかも所得税法上権利確定主義は一応の原則であってその例外を許さないものではなく,また権利確定主義の適用される場合であってもいかなる時期を以て権利が確定したとみるべきかについて検討してみると,税法上権利確定主義が採用される重要な理由の一つが,徴税技術上所得を画一的に把握し税収を確保する必要性があることに存することはいうまでもないところでさるが,もともと所得税は究極的には実現された収支に対応する所得をタイ衣装とすべきものであるから」「権利確定の時期を決定するについてはできるだけ収入の実現の蓋然性が高い時点を選ぶべきであり,また権利確定主義を採用すべき重要な理由の一つとして,収入の実現が可能である場合にその実現に努力した者には課税され実現に努力せずこれを放置する者には課税され実現に努力せずこれを放置する者には課税されないという現実収入主義によって生ずる課税の公平負担を害する結果を避けることにあるという点を考慮すると,通常の経済人ならばその実現をはかりその実現が可能とされる状態をもって権利確定の時期を選ぶべきであて,この意味から収入の権利確定の時期としては原則として法律上権利の行使ができるようになったときを基準とすると解するのが相当である。(最高裁判所昭和四〇年九月八日判決,刑集一九巻六号六三〇頁参照)」

「そこで消費貸借に基づく利息,損害金収入についてこれをみると,利息制限法所定の利率による約定利息、損害金については,その履行期の到来により利息,損害金債権が確定し,右確定した年度の所得として課税さるべきものと解される。しかしながら利息制限法所定の利率をこえる部分の約定利息,損害金については,ほんらい右利息,損害金の約定は無効であって法律上なんらの債権も発生しないものであり,したがってその受領前に法律上権利を行使しうることはありえず,現実の支払いがあってはじめてこれに対し所得の帰属を考えうるものであるから,その未収の段階における年度の所得としては課税することは許されないと解すべきである(但し現実に受領した年度の所得として課税されることのあることはいうまでもない。)。もっとも所得税法上所得の概念はもっぱら経済的にみて利得を現実支配管理し自己のためこれを享受しうる可能性があるから課税対象となる所得を構成するのではないかとの疑がないわけではない。しかしながら納税義務者が一定の財貨を取得しまたはその可能性がある場合に,それが所得を構成するかどうかはそれが納税者の収入となりかつそれが納税者に帰属することが必要であり,たとえば財貨の取得が消費貸借に基づく金銭の受領である場合にはその金銭が元本の支払いに充当されるものではなく利息、損害金として受領しうるものであってはじめて収入となり所得を構成すると考えられるのであるが,金銭の受領が元本に充当されるものか利息,損害金の受領となるかは法律的な評価を俟ってはじめて可能であり,純経済的観点のみからこれを区別することはできないと考えられるし,またその収入が納税者に帰属するかどうかも法律に規律される社会生活においては法律的観点を全く離れてはこれを決定することはできないといわなければならない。

したがって税法上所得概念を把握するについて法律的観点を全く離れて純経済的にのみ把握することは相当は相当でないといわなければならない。

また利息制限法所定の利率をこえる利息,損害金の約定がなされた場合には,それが未収であっても経済上一定の金銭を受領する可能性のあることは必ずしも否定できない。しかし元本債権が残存するかぎりは仮にこれを受領しても元本に充当されその全部が利息,損害金収入を構成しないのではないかとの疑いもありその限度では利得を支配管理しているとすらいえないのではないかとも考えられ,また元本債権がすでに計算上存在しない場合でも,債務者が任意に支払いを続けるかぎり事実上利得の受領を期待しうるにすぎず,債務者が一旦任意の支払いをしないような状態になった場合にその実現をはかる合法的な手段はなく,むしろ回収不能になるおそれの極めて高いものであって,かような単に相手方の任意の履行にのみ期待し納税者から合法的にこれを実現する手段を有しないような地位をもって所得の対象となる利得を支配管理しているといえるかは少なからぬ疑問があり,少なくとも法律上権利を行使しうる債権と全く同様に収入の確定したものとして取扱うことはできないと解すべきである。そこで単に経済的に金銭を受領する可能性が発生したにすぎない利息制限法所定の利率をこえる未収利息をもって単に所得があるとして,その年度の所得として課税することは許されないというべきである。」

 

控訴審判決(福岡高裁昭和42年1月30日判決・行集18巻12号1577頁)〉控訴棄却

「旧所得税法第一〇条第一項にいわゆる『収入すべき金額』とは『収入する権利の確定した金額』をいうものと解され,その収入をもたらす請求権が法律的に保護されていることを要するものというべきところ,利息制限法所定の制限を超過する利息,損害金は無効であって,その収入が法律的に保護されないものであるから,その収入の可能性は客観的に認められず,期待できないものであって,かかる利息等の支払が当事者間で契約されたとしても,それだけでは『収入する権利の確定したもの』には該当しないといわなければならない。

尤も所得税法上所得の概念は経済的実質によって把握すべきであるから法令に禁止された行為に基づく収入であってもそれが現実に受領された場合には課税対象としての所得を構成することは勿論であり,従って利息制限法所定の制限を超過する部分の息利,損害金であっても既に実現された収入はこれを所得に計上すべきものと考えるが,いまだ実現されていない収入は法律的に保護されたものでなければその収入の実現は期待できず『収入すべき権利の確定したもの』ということはできないので右超過部分の利息,損害金については,その未収の段階における年度の所得として課税することは許されないと解すべきである。」

 

最高裁判決(最高裁昭和46年11月9日判決・民集25巻8号1120頁)〉上告棄却

1「本件における直接の論点は,制限超過の利息・損害金のうち未収のものに対する課税の許否に限られることとなるのであるが,問題の発端は利息制限法の解釈にあり,また,論旨は,原判示のごとき解釈は徴税の実際に適しないとして,その不当を攻撃するところがあるので,制限超過の利息・損害金が前記にいわゆる「収入すべき金額」として課税の対象となるか否かについて,現実に収受された場合と未収の場合との両者を含めて,以下に考察することとする。」

2「利息制限法による制限超過の利息・損害金の支払がなされても,その支払は弁済の効力を生ぜず,制限超過部分は,民法四九一条により残存元本に充当されるものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところであつて(昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決,民集一八巻九号一八六八頁),これによると,約定の利息・損害金の支払がなされても,制限超過部分に関するかぎり,法律上は元本の回収にほかならず,したがつて,所得を構成しないもののように見える。

 しかし,課税の対象となるべき所得を構成するか否かは,必ずしも,その法律的性質いかんによつて決せられるものではない。当事者間において約定の利息・損害金として授受され,貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく,依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱つている以上,制限超過部分をも含めて,現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となるものというべきである。もつとも,借主が約定の利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当することにより,計算上元本が完済となつたときは,その後に支払われた金員につき,借主が民法に従い不当利得の返還を請求しうることは,当裁判所の判例とするところであつて(昭和四一年(オ)第一二八一号同四三年一一月一三日大法廷判決,民集二二巻一二号二五二六頁),これによると,貸主は,いつたん制限超過の利息・損害金を収受しても,法律上これを自己に保有しえないことがありうるが,そのことの故をもつて,現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないものと解することはできない。」

3「一般に,金銭消費貸借上の利息・損害金債権については,その履行期が到来すれば,現実にはなお未収の状態にあるとしても,旧所得税法一〇条一項にいう『収入すべき金額』にあたるものとして,課税の対象となるべき所得を構成すると解されるが,それは,特段の事情のないかぎり,収入実現の可能性が高度であると認められるからであつて,これに対し,利息制限法による制限超過の利息・損害金は,その基礎となる約定自体が無効であつて(前記各大法廷判決参照),約定の履行期の到来によつても,利息・損害金債権を生ずるに由なく,貸主は,ただ,借主が,大法廷判決によつて確立された法理にもかかわらず,あえて法律の保護を求めることなく,任意の支払を行なうかも知れないことを,事実上期待しうるにとどまるのであつて,とうてい,収入実現の蓋然性があるものということはできず,したがつて,制限超過の利息・損害金は,たとえ約定の履行期が到来しても,なお未収であるかぎり,旧所得税法一〇条一項にいう『収入すべき金額』に該当しないものというべきである(もつとも,これが現実に収受されたときは課税の対象となるべき所得を構成すること,前述のとおりであつて,単に所得の帰属年度を異にする結果を齎すにすぎないことに留意すべきである。)。」

4「以上によると,(1)借主が当初の約定に従い制限超過分を含めて利息・損害金の支払をし,貸主がこれを収受した場合は,利息制限法による制限の範囲内であると否とを問わず,これが課税の対象となるべき所得にあたるが,(2)約定の履行期の属する年度内にその支払がない場合は,約定の利息・損害金のうち,法定の制限内の部分のみが課税の対象となるべき所得にあたり,制限超過の部分はこれにあたらないこととなる(ただし,すでに制限超過の利息・損害金の支払がなされているときは,前記大法廷判決の示す法理により,法律上当然に元本に充当されるから,その残額についてのみ利息・損害金を生ずることとなるのであつて,利息・損害金が法定の制限内なりや否やは,右の法律上有効に残存する元本を基準として算定されなければならない。)。」

5「以上により,原判決が,制限超過の利息・損害金については,約定の履行期が到来しても,なお未収であるかぎり,旧所得税法一〇条一項にいう『収入すべき金額』に該当せず,これが被課税所得を構成しないとした判断は正当で,原判決に所論の違法はなく,論旨は,すべて採用できない。」