路地裏バーのからくり書庫(税法)

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租税判例百選[第4版]101 推計課税による実額反証

(東京高裁平成6年3月30日判決・行集45巻3号857頁)

 

〈事案の概要〉

Xは,建築業,飲食業等を営む自営業者であり,いわゆる白色申告者である。税務署長YはXに対し税務調査を指示し調査官がXの事務所に赴き,帳簿書類等を提出するよう求めたがXはこれに応じようとしなかった。そのため,Yは反面調査を基にして推計課税を行い更正処分を行った。

 

 

〈納税者の主張〉

1「被告が原告に対して行った税務調査は,所得税法二三四条一項所定の「調査について必要があるとき」という要件を充たしておらず,違法である。本件各更正は,違法な税務調査に基づく,違法なものである。」

「本件各更正は,原告の本件各年分の事業所得の金額を,推計の必要性がないのに推計の方法によって算定しているので,違法であり,取消しを免れない。」

「原告の本件各年分の事業所得の金額は各確定申告書に記載したとおりである。被告が推計の方法によって算定した事業所得の金額は,原告の事業の実情を無視したものであるから,これを基にした本件各更正は違法であり,取消しを免れない。」

2「昭和五七年六月三日の被告の調査において原告が帳簿書類を呈示しなかったのは,被告所属の係官が調査の具体的理由を明示しなかったため,『どこを見せてよいか分からない』と判断したことによるものであり,これは『合理的理由のある資料提供の拒否』というべきである。

そして,原告は,同年一二月三日以降も被告所属の係官の調査には協力する意向であり,被告所属の係官において銀行調査や取引先の反面調査等を行ったうえ不明な部分を具体的に調査するのであれば,原告としても帳簿書類等を呈示して積極的に調査に応ずる意向であった。

しかしながら,被告所属の係官はこのような対応をせず,一方的に調査を打ち切ったものであるから,推計の必要性は存在しない。」

 

〈税務署長の主張〉

「原告は,本件各更正に係る被告の調査に全く応ぜず,本件各年分の所得金額を算定するに足りる帳簿書類等の資料を提出しなかった。

被告は,実額による本件各年分の所得金額を算定することができないため,やむなく被告の調査によって把握した収入金額を基礎として原告の事業所得金額を推計したところ,原告の申告所得金額が過少と認められたため,所得税法一五六条の規定により本件各年分の所得税額等の更正を行ったものである。

したがって,本件において推計の必要性が充足されていることは明白である。」

 

 

〈第一審判決(新潟地裁平成5年3月23日判決・行集45巻3号868頁)〉請求棄却

「右認定事実によれば,原告は,被告の所属係官の調査に対し,本件各年分の所得を実額で算定するに必要な帳簿書類等の呈示をせず,非協力的な態度に終始したのであり,そのため,被告において,原告の本件各年分の所得金額を実額によって把握することができなかったのである。したがって,本件各更正時においては推計課税の必要性があったと認められるから,被告が,原告の取引銀行及び取引先の反面調査によって把握した収入金額を基礎とする推計の方法によって原告の本件各年分の事業所得金額を算定したうえ,本件各更正を行ったことには,何らの違法もないというべきである。」

また,その推計計算にも合理性が認められるから,Yの処分に違法性は認められない。

 

控訴審判決(東京高裁平成6年3月30日判決・行集45巻3号857頁)〉控訴棄却

「税務署長が申告された又は無申告の所得税課税標準等ないし税額等について更正又は決定をするに当たっては,所得の実額をもってすべきである(国税通則法二四条,二五条)が,所待の実額を捕そくすることができない場合においても,租税負担公平の原則上更正又は決定をすることを回避又は放棄することは許されないから,高度の信頼性を付与されている青色申告にかかる更正の場合を除き,間接的な資料によって所得を認定して更正又は決定をしなければならない。所得税法一五六条一なお,法人税法一三一条)は,この趣旨を規走したものである。したがって,間接的な資料を用いて所得を認定する方式である推計課税は,直接資料を用いて所得を認定する方式である実額課税に代わるものではあっても,それ自体一つの課税の方式であって,所得の実額の近似値を求める,いうなれば概算課税の性質を有しているというべきである。そうだとすると,推計課税における推計の合理性は,所得の実額との関係で厳密な整合性を有する必要はなく,実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の推計の合理性で足りるというべきである。」