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路地裏バーのからくり書庫(税法)

税法の論点・判例をつまみに,ウィスキーでも飲みながらどうぞ。

租税判例百選[第4版]70 タックス・ヘイヴン対策税制の適用除外要件

(東京高裁平成3年5月27日判決・行集42巻5号727頁)

 

〈事案の概要〉

X社は同族会社であり,事業上の判断により香港にA社を設立し,同社はタックスヘイブン対策税制の適用はないものとして確定申告したところ,税務署長Yは,タックスヘイブン対策税制の適用除外要件の一つである管理支配基準を充足していないとして更正処分等を行った。

 

〈納税者の主張〉

〈税務署長の主張〉

(省略。)

 

〈第一審判決(東京地裁平成2年9月19日判決・行集41巻9号1497頁)〉請求棄却

タックスヘイブン課税の適用除外規定は,特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え,かつ,その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済的合理性がある場合にまでタックスヘイブン課税規定を適用することは,我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるので避けるべきであるとの趣旨で設けられたものと解されるから,右の管理支配基準は,右のような場合に当たるかどうかを事業の管理運営の面から判断する基準をいうものと考えられる。したがって,右の基準を充足しているといえるか否かは,当該外国子会社等の重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催,役員の職務執行,会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地国で行われているかどうか,業務遂行上の重要事項を当該子会社等が自らの意思で決定しているかどうかなどの詣事情を総合的に考慮し,当該外国子会社等がその本店所在地国において親会社から独立した企業としての実体を備えて活動しているといえるかどうかによって判断すべきものと解される。

ところで,本件各事業年度においてALH社の行っていた主たる事業が卸売業あるいはサービス業のいずれの範疇に属するものと見るべきかについては,当事者間に争いがあり,原告は,ALH社の行っていた事業が貿易関連のサービス業に当たるものであるとし,そのような事業内容を前提とすれば,ALH社を香港に設置することには十分な経済的合理性が認められ,また,ALH社がその本店所在地国たる香港においてその業務に対する管理,支配を行っていたこととなるから,右の管理支配基準が充足されていたと主張する。しかしながら,措置法六六条の六第三項の規定の文言からすれば,少なくとも管理支配基準を充足しているか否かの判断に関する限りでは,ALH社の業務が卸売業とサービス業のいずれに該当するかということは,直接的にはさほど決定的な意味を持たないものというべきである。すなわち,同項の規定からすれば,この管理支配基準を充たし本店所在地国で独立した企業の実体を備えて事業活動を行っていると見られる特定外国子会社等であっても,その行う事業の内容に応じて要求される非関連者基準や所在地国基準を充たしておらず,所在地国に本店を置く経済的合理性が認められない場合には,なおタックスヘイブン課税の規定が適用されることとなっており,他方,本店所在地国で事業活動を行うことに十分な経済的合理性が認められる場合であっても,およそ管理支配基準が充たされていない限り,なおタックスヘイブン課税規定が適用されることになっているのである。このような規定の仕方からすれば,同項にいう管理支配基準は,当該特定外国子会社等の業務の種別とは一応無関係に,その子会社等が独立企業としての実体を備えて,その本店所在地国において,自らの決定,判断に基づいてその事業の管理,支配及び運営を行っていると見られるか否かを問題としているものと考えるのが相当である。したがって,本件においてALH社がこの管理支配基準を充足していたか否かも,ALH社が親会社たる原告の管理支配を離れ実質的に原告から独立した法人としての立場で本店所在地国たる香港においてその事業活動を行っていたと見られるか否かを,その事業活動の実態に即して直載に判断すれば足りるものと考えられる。」

「認定した各事実を総合すると,ALH社は,取締役会や株主総会による同社の重要な意思決定を専ら原告の本店所在地で行い,役員も全員が原告との兼務であってA以外はALH社には常勤しておらず,ALH社の役員の選任など人事に関する事項から新事務所の内装,披露晩餐会の開催等に至るまでの各種のALH社の事務処理の方針を原告において最終的に決定し,また,これらに要する費用の支出についてもALH社では独自のその支出を決定するのではなく原告の決済を仰ぐといった方法で,その事業の管理,運営を行っていたものと考えられる。しかも,ALH社の業務の範囲やその具体的な内容自体も,専ら原告が自らの決定,判断によって各シッパーとの間で行う南洋材の取引によっていわば自動的に決定されてくるという仕組みになっており,ALH社の独自の判断によってこれを決定するというものではなかったものと考えられる。このような事実関係からすれば,ALH社は,その本店所在地国たる香港において独立した法人としての立場でその事業を自ら管理,支配及び運営していたものとは到底いえず,むしろ,その親会社たる原告がその本店所在地国たる我が国においてその管理,支配を行っていたものといわなければならない。」

「右のとおり本件各事業年度においてALH社が管理支配基準を充たしていない以上,その余の点について判断するまでもなく,ALH社の課税対象留保金額は原告の所得の金額の計算上益金の額に算入されるべきこととなる。そして,被告主張の本件各事業年度における原告の特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の基礎となるべき各金額及びその計算結果については当事者間に争いがないから,原告の本件各事業年度の所得金額の計算において,被告がその主張の金額を益金に算入すべきものとして本件各更正及び本件各決定を行ったことには,何ら違法はないものというべきである。」

 

控訴審判決(東京高裁平成3年5月27日判決・行集42巻5号727頁)〉控訴棄却

「結局,右認定事実からすれば,控訴人主張のALH社のサービス業なるものは,業として存在し得たとしても,ALH社が,その本店所在地国たる香港において独立した法人として,その事業を自ら管理,支配及び運営していたものとは到底いえず,むしろ,親会社たる控訴人がその本店所在地である我が国においてこれを実質的に管理,支配していたも

のといわざるを得ないのである。

また,ALH社の株主総会の開催が控訴人の本店所在地で行われ,ALH社の事務処理の方針を控訴人において最終的に決定していることのみをもって,ALH社が事業の管理・支配及び運営を自ら行っていないということはできないにしても,前記認定事実によれば,それだけでなく,ALH社の事業の実態をも併せて見れば,ALH社が事業の管理・支配及び運営を自ら行っていないことが明らかとなるのである。

更に,ALH社が控訴人の一〇〇パーセント出資による子会社であることから出資者たる控訴人とALH社との間に資本の論理が働き,控訴人が強力な発言権を行使し,ALH社に対し指揮,監督を行うことは充分考えられるところであるが,資本の論理も子会社としての独立性を否定しない限度に止まるべきものであって,その指揮,監督が事業の末端までに及ぶに至れば,ALH社の独立した企業としての実態を否定するに至ることは必定であるといわなければならない。」